オープンアクセス(OA)についてのChatGPTへのインタビュー
学術出版の問題と実践に関する研究論文を出版するOAジャーナル“The Journal of Electronic Publishing”の26巻1号が2023年5月に公開され、“Open Access: A Conversation with ChatGPT”という記事が掲載されました。
この記事は、2023年1月21日にLewis David氏がChatGPTに対して行ったオープンアクセス(OA)についてのインタビューをまとめたものです。全部で14の質問が行われ、ChatGPTの回答が掲載されています。2021年末までのコンテンツを学習したChatGPTとの対談であるため、最新の情報はカバーできていないものの、ChatGPTがWeb全体の代弁者としてOAの現状をうまくまとめた内容となっています。
ChatGPTの回答に基づくOA化の定義、方法、長所・短所について
ChatGPTへのインタビューによると、学術文献のOA化とは、研究論文や学術的な著作物を購読や支払いの必要がなくオンラインで自由に利用できるようにすることとあります。また、ChatGPTはOAを実現する方法として、OAジャーナルへの投稿と、著者が自分の論文を機関リポジトリや個人のWebサイトで公開するセルフアーカイブという2つの方法を紹介しています。論文処理料(APC)についても言及しており、政府や財団、研究機関などからの資金提供によってOAが可能になるということも回答には含まれていました。
また、インタビューではOAジャーナルとセルフアーカイブを比較し、長所と短所についても質問しています。ChatGPTによる回答を要約すると以下のようになります。
OAジャーナルの長所
・研究の可視性と影響力が高まる
・OAジャーナルには査読があり、研究の質が保証される
・研究者が自分の研究を世界に共有できる
・読みやすさとアクセシビリティが向上する
OAジャーナルの短所
・資金不足の研究機関や発展途上国の研究者にとっては論文処理料(APC)が障壁となる
・購読ベースのジャーナルよりも閲覧数や引用数が少ない可能性がある
・資金が限られていることで、購読ベースのジャーナルと同じレベルのサービスを提供できない
さらに、学術出版の一形態としてのOAのメリット・デメリットに関する質問もありました。これよりも前に行われた質問に対する回答と一部内容が重複しながらも、ChatGPTは一貫した回答を生成しており、OAのメリット・デメリットを端的にまとめているといえます。回答の概要を列挙します。
学術出版の形式としてのOAのメリット
・可視性と影響力の向上
・知識へのアクセスの向上
・コラボレーションとイノベーションの向上
・OA義務の遵守
・費用対効果の高さ
・知識の迅速な普及
学術出版の形式としてのOAのデメリット
・資金の問題(特に論文掲載料の支払い)
・品質に関する懸念
・一部のOA出版物には安全で持続可能な長期保存戦略がないこと
・影響力の測定の難しさ
・論文の配布と再利用に対する制御の難しさ
・ハゲタカジャーナルの可能性
OA出版の将来性、引用数増加の因果関係、定期購読出版社に対する経済的な影響について
ChatGPTは、OAの急速な成長やOAジャーナルに投稿する研究者の増加などを挙げて、将来的にOAが学術出版の主流になる可能性を示唆しています。その一方で、OA出版に移行する際にかかるコストや、購読ベースのジャーナルのインパクトファクターなどを鑑み、将来的にOAが購読ベースの出版に完全に置き換わるかどうかを正確に予測することは困難だとしています。
論文をOA出版することで引用数が増加するかどうかについては、ChatGPTはいくつかの研究を挙げながら回答を生成しています。OA論文が購読論文よりも多く引用されていることを示すデータとして、2016 年に実施されたメタ分析では8%、2018年に実施されたメタ分析では平均18%も多く引用されているという値を紹介しています。
その一方でChatGPTは、他のいくつかの研究ではOA論文と非OA論文の間で引用率に有意差は見られなかったとも回答しています。有意差がないことを示す例とし、“Journal of the Association for Information Science and Technology”に掲載された 2018 年の研究を挙げています。
また、定期購読出版社に対する経済的な悪影響に関する質問に対しても、ChatGPTはポジティブな結論とネガティブな結論の両方を提示しています。OAによって出版社の購読料収入や広告収入が減少する可能性があるとする一方で、引用数の増加やインパクトファクターの向上によって投稿数やサービス利用数が増加し、論文掲載料(APC)などの収益増加が見込めるとも回答しています。さらに、定期購読出版社の多くがハイブリッドOAを提供していることにも触れ、出版社が持続可能な財務モデルを構築できる可能性についても言及しています。
ChatGPTには好みや意見はないながらも、最後にOAの有益性を主張
最後に、「この対談が出版されるとしたら、OAにしたいかどうか」という質問も行われました。ChatGPTは「言語モデル AI として、私には好みや意見はありません」と前置きをしたうえで、OAは研究者、学生、一般の人々にとって有益であること、資金不足の機関や発展途上国の研究者にとって役立つことを述べました。そして、この対談がOAとして公開されることで有益になる可能性があると回答して、対談はしめくくられました。
ChatGPTによって生成された回答については内容や最新性を慎重に判断する必要はありますが、OAについてさまざまな質問を行ったこのインタビューによって、OAの現状や概要が分かりやすく表現されたといえます。
参考文献
The Journal of Electronic Publishing. — Open Access: A Conversation with ChatGPT