査読の期間短縮や精度向上に役立つさまざまなAIツール
論文の査読にAI(人工知能)を活用する学術出版社が増えています。投稿された論文のスクリーニングや査読者の選出にAIを導入した結果、査読にかかる時間の短縮や編集者や査読者の負担軽減が実現しました。ほかにも、英文校閲AIは英語が第一言語でない研究者の論文投稿をサポートし、査読の精度向上に役立っています。学術研究の質を支える査読において、実際に運用されているさまざまなAIツールをご紹介します。
AIによる論文のスクリーニング
査読に要する期間は一般的に2~3週間前後とされていますが、数か月かかる場合もあります。質の低い論文やジャーナルにマッチしない論文を査読者に回してしまうと、時間もコストも大きくロスすることになりかねません。査読期間を短縮し、査読者の負担を軽減するために使われているのが、論文をスクリーニングして評価するAIです。
アメリカ化学会(ACS)の出版部門では、テキストの意味論的分析と出版履歴に基づいてAIが原稿の転送先を提案するツールを導入しています。ACSのとあるジャーナルに投稿された論文が査読後にリジェクトされた場合、このAIツールがACSから刊行されているほかのジャーナルへの転送を推薦します。編集者にとっては査読にかけた時間を無駄にすることがなく、著者にとってはリジェクトされた原稿をスムーズに他誌に投稿することができるのです。
査読者の選出をサポートするAI
ひとつの論文に対して、一般的には2名の査読者が査読を行います。しかし、専門性が高く細分化された分野だと査読できる研究者がごく限られる場合もあります。査読に適した候補者探しも時間がかかるプロセスのひとつです。
そこで、査読に適した候補者の選出をサポートする目的でAIを活用している出版社も増えています。そのひとつが、光学とフォトニクス分野における専門職集団であるアメリカ光学会(OSA)です。OSAはexpert.aiと提携して、過去に出版された膨大な論文のデータを分析し、査読に適した候補者を選出するシステムを開発しました。
具体的には、著者がOSAジャーナルに論文を投稿すると、3名の査読者候補が自動的に推薦されます。表示されるさまざまな情報をもとに編集者が査読者を選択することで、時間をかけずに査読を依頼することができます。
人間によるチェックに匹敵する精度をもつ英文校閲AIツール
どんなに優れた論文であっても、一定の言語レベルを満たしていなければ英文校閲のチェックに時間がかかり、専門的な査読にかける時間が短くなってしまうことがあります。非英語圏の研究者が英文で論文を提出するときに役立つのが、英文校閲AIです。たとえば、科学技術分野および医療・薬学分野のジャーナルを多く刊行する学術出版社Hindawiは、非英語圏の研究者のために「Writefull」というAI英文校閲ツールを導入しています。
現時点ではまだ人間の校正者によるチェック品質を上回ってはいませんが、英文校閲AIツールと併用すれば人的コストが削減できるうえに、言語レベルが高い論文が投稿されることで査読の期間短縮にもつながります。
最終的な判断をするのはあくまで人間
このように、論文の査読においてはさまざまなAIが活用されています。現時点でAIツールができるのは主にチェックと提案であり、著者や編集者などの人間が最終的な判断をする必要はあります。しかし、AIツールの進化や新たなツールの開発によって査読の効率は上がり、精度もますます高まると考えられています。
参考文献
ACS Publishing — Peer Review
OSA Publishing — Overview of the Peer Review Process
Writefull 公式サイト
Writefull — Official Press Release: Writefull’s tech disrupts AI-based proofreading
Writefull — for publishers