ImpactStoryで個々の研究データの影響度を測定可能に
従来から、研究者らが書いた学術論文の年間引用回数をもとに算出されるインパクトファクター(IF)が、その研究者の研究成果が学術においてどの程度の影響力を持っているかを推し量る指標として用いられてきました。しかし、IFはあくまでも学術論文の世界でその論文がどの程度引用されたのかをみただけの数値であり、論文以外での貢献度については調べられません。加えて、IFの値を算出するには数年を要するという歳月的なデメリットなどもあります。
近年になってからは、「オルトメトリクス(altmetrics)」と呼ばれる新しい評価指標が一般に普及し、例えばある論文がどのくらい人々(研究者以外の人々も含む)から興味を持たれたかを推し量る事ができるようになりました。
そして、さらに最近になって「ImpactStory」というウェブツールが公開され、従来の研究成果評価指標よりもさらに細部に踏み込んだ評価の仕方が可能になったのです。
あらゆる研究成果から影響度を測定し無料公開論文の閲覧も可能に
ImpactStoryは、アルフレッド・P・スローン財団とアメリカ国立科学財団が資金提供するオープンソースのWebベースツールです。このWebベースツールは、研究者の書いた学術論文のみならず、その研究者が開発したソフトウェアや個々のデータセット、さらにはブログ投稿記事にまで至る全ての研究成果をカバーし、それらの成果がどの程度の影響度を持っているかを測定し、共有できるようにするための高度な統計情報を提供する機能を持っています。影響度を表す指標の算出がIFと違って短期間でできる事も大きな強みです。
それぞれの研究成果をもとに、ImpactStoryはそれらの成果が人々にどういう形で興味を持たれたかを評価するための項目として「cited:引用された」、「recommended:お薦めされた」、「saved:保存された」等といったボタンを用意し、各研究成果の横に表示するようにしています。さらに、こういった引用等の行為が専門的研究者からなされたものなのか、あるいは研究者ではない一般の人からなされたのかも区別できるようにしてありますので、各研究成果が学術の場以外でどの程度貢献しているのかについても言及が可能です。
さらに2017年には、ImpactStoryはUnpaywallというChrome拡張機能を加えました。この新機能は、利用者を無料公開論文(オープンアクセスジャーナル)へ誘導するためのものであり、Unpaywall を使う事によって、ImpactStoryに掲載されている各々の記事を閲覧した人が、その場でその記事に関連するオープンアクセスジャーナルの全文を読む事ができるようになりました。
研究資金提供者探しにも活用できる可能性
ImpactStoryは、自分の研究成果が他人から興味を持たれた回数などを知りたいと思っている研究者にとって有益なツールであるだけでなく、各研究成果そのものについての専門知識の無い人でも有効に使えるようにするために、各指標の測定方法に関して背景等の説明も付け加えるようにしています。そのため、学問の世界以外の人からも非常に多くの興味が集まりやすく、研究者が自分と提携して資金援助を行ってくれるような提供者をサーチするのにも役立つと期待できます。
研究成果評価指標を平易に査定できるウェブツールImpactStoryは、今後の産学連携のための重要な橋渡しに貢献する可能性があります。