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2022年度科学研究費助成事業から見る「わが国が目指すもの」とは

優秀な若手研究者による研究チームを長期的に支援し、国際共同研究の強力な推進から共著論文の産出に結び付ける計画が動き出そうとしています。コロナ禍を経て欧米では対面での国際交流が再開されつつあります。わが国はこの流れに後れを取ることなく、国際的な存在感を再び示すことができるのでしょうか。

「国際先導研究(仮称)」とは

新設が決まった「国際先導研究(仮称)」とは、国際共同研究の推進を強力に支援するものとして2022年より開始する科研費の新種目です。これまでの個人レベルを対象としたものとは異なり、支援の対象が大型研究チームとなります。具体的には、チームの約8割が博士研究員や博士課程学生で構成される合計で20~40名程度で、スポークスパーソン経験やTop10%共同国際共著論文の3年以内の実績など、国際共同研究での高い実績を持つ研究室主宰者をチームリーダーとするトップレベル研究チームとしています。支援期間は7年(10年まで延長可)、支援額は1件あたり最大5億円で、長期的で強力な支援を行うことで、優秀な若手研究者を世界と戦える人材へと育成することを目的としています。

また、国際先導研究(仮称)では、若手育成措置として、博士研究員や博士課程学生の人数に応じた研究環境整備やテニュア採用者の研究についての経費も設定されています。これにより、博士研究員や博士課程学生の海外派遣や海外交流、自立支援などを2~3年といったスパンで行うことを可能としているため、研究室主宰者の下、博士研究員はテーマ設定を自ら設定し、メンターの支援を受けた研究を行うことができます。わが国の研究チームと海外トップレベルの研究チームの博士研究員や博士課程学生の相互派遣によって両チームの共同研究を行います。また、こうした積極的な海外派遣・交流によって、質の高い国際共著論文が産出されることを目指しています。

文科省の最近の動き

文部科学省は、教育、科学技術、学術、文化、スポーツの振興について管轄する中央省庁です。今回取り上げた国際先導研究(仮称)は、科学技術分野振興におけるさまざまな事業の中の一つであり、科学研究費助成事業=「科研費」の新設種目となります。

科研費とは、人文学、社会科学、自然科学までの全ての分野を対象とした、学術研究を格段に発展させることを目的とした競争的研究費のことで、ピアレビューによって助成対象を選定しています。科研費は対象とする研究や資金の性格が他の研究費助成とは異なっており、研究者の自由な発想に基づく研究を支援する国内唯一の競争的研究費とされています。

2022年度科研費の重点項目として挙げられているのが、国際共同研究の強化、若手研究者への重点支援、新興・融合領域の強化の3点です。このうち国際共同研究の強化の柱となるのが、先の国際先導研究(仮称)の創設です。国際先導研究(仮称)は、国際共同研究加速基金により措置されます。従来からこの基金では、最長3年・最高1200万円支援の「国際共同研究強化(A)」、3~6年・最高2000万円支援の「国際共同研究強化(B)」、最長3年・最高5000万円支援の「帰国発展研究」といった研究種目が設置されていましたが、これらに国際先導研究(仮称)が加わった形です。従来の支援期間・金額との比較からも国際先導研究(仮称)は大規模で長期間に渡る支援を可能にし、今後の国際共同研究への強化という目的意識の高さがうかがえます。

「国際先導研究(仮称)」を推進することの意味

研究力という側面でわが国の科学技術を見たとき、それをはかる主な指標として使われるのは、論文数や注目度の高い論文(=Top10%補正論文)数です。かつては論文数では米国に次ぎ2位、Top10%補正論文数では4位といずれも高い水準だった時代もありました。しかし現在(2016~2018年平均)は、論文数では中国、米国、ドイツに次ぐ4位、Top10%補正論文数では米国、中国、英国、ドイツ、イタリア、オーストラリア、フランス、カナダに次ぐ9位となっています。

国際的な存在感を示すには、共同研究や共著論文数が重要な指標となることも今や常識です。さらに、独創的な研究成果のために必要なものとして、国内研究者の海外派遣、海外研究者の国内受け入れ数、つまりさまざまな主体との知的交流が挙げられますが、これらがいずれも伸び悩んでいるのが現状です。こうした現状に加えて、新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な海外渡航の激減が影響したためか、国際的にも停滞した状況になっています。

しかし今後、いわゆるポストコロナの時代に突入し、国際的な知的交流が再開した時、諸外国の動向に後れを取ることなく、かつ、わが国の存在感を向上させるためにも、国際研究ネットワークへの再接続を目指す国際先導研究(仮称)には、若手研究者たちは大きな期待を寄せてもよいのではないでしょうか。

参考文献

日本学術振興会 科学研究費助成事業 研究種目・概要
文部科学省 科学技術・学術審審議会学術分科会 研究費部会(第11期第3回)議事次第
文部科学省 研究振興局学術研究助成課 科学研究費助成事業(科研費)について
文部科学省 令和3年版 科学技術・イノベーション白書 第3章 Society 5.0 実現の基盤となる基礎研究力の強化

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