学術書のオープンアクセス(OA)化に関する5つの推奨事項について
研究成果や論文のオープンアクセス(Open Access:OA)化は、多くの国で推進されています。特にヨーロッパではOA化に関する議論が活発で、ジャーナルだけではなく学術書についてもOA化拡大の動きが広まってきました。学術書のOA化が進むことで、世界中の研究者が手軽に学術書を読めるようになります。執筆した研究者にとっても、研究成果を社会に還元し学術研究の発展の一助となれるといったメリットがあります。実際、研究者の多くは将来的にすべての学術書がOA化されることを望んでいるという調査もあります。学術書のOA化はどれくらい進んでいるのでしょうか。
学術論文ジャーナルのOA化は日々拡大
cOAlition S(コーリションエス)は、欧州委員会などの支援を受けて2018年に立ち上げられた、学術研究成果のOA化を推進するイニシアチブです。2021年1月には、1年間の延期を経て「Plan S」を発効しました。Plan Sとは、参加機関から助成を受けているすべての研究者に対して、研究結果に関するすべての学術出版物を完全かつ即時にオープンアクセスジャーナルまたはオープンアクセスプラットフォームで公開するよう求めるものです。
エルゼビア社からは160誌が、ケンブリッジ大学出版局からは209誌ものジャーナルが、Plan Sに準拠した転換雑誌としてすでに登録されています。また、シュプリンガー・ネイチャー社も2022年にはPlan Sに準拠した転換雑誌を2誌創刊すると発表しました。Plan Sに準拠したオープンアクセスジャーナルは、今後も増加傾向にあると考えられています。このように、学術論文を掲載するジャーナルのOA化は着実に拡大しているといえます。
学術書のOA化に関する5つの推奨事項
その一方で、学術書のOA化についてはまだ多くの課題があることも事実です。
cOAlition Sも学術書の出版はジャーナルの出版とは異なるという認識を示しており、「学術書とは、モノグラフ(単行書)、本の章、編集されたコレクション、校訂版および長編論文を含む」と定義しています。そのうえで、学術書は特に社会科学分野および人文科学分野の研究者にとっては重要な出版方法であり、すみやかに資金調達モデルを開発して学術書のOA化を推進する必要があるとしています。
Plan Sの実装に向けたガイドラインのなかでは、「モノグラフ(単行書)および本の章についてPlan Sを適用する場合の原則および実装ガイダンスについて、2021年末までに発表する」と記載されていました。これを受けて、cOAlition S は2021年9月2日に、学術書のOA化に関する5つの推奨事項を発表しました。
5つの推奨事項の概要がこちらです。
1.cOAlition Sの参加機関から支援を受けた研究に基づく学術書は、出版時にOA化する必要があること
2.OA化および二次利用のための知的財産権は、著者およびその所属機関が保持すること
3.学術書は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス下でOA化されること
4.エンバーゴ期間(論文の全文閲覧を一時的に制限する期間)はできるだけ短くし、最大12か月とすること
5.cOAlition Sの参加機関は、学術書のOA化およびOA出版のビジネスモデルを財政的に支援すること
単一のポリシーではなく5つの推奨事項として発表したのは、学術書の形式や技術プラットフォーム、言語やビジネスモデルの違い、各国の出版慣行の違いなどの多様性に配慮するためです。cOAlition Sは、今後はさまざまなコミュニティと連携しながら学術書のOA出版に向けて実装ガイドラインを作成するとしており、今後も注目する必要があります。
日本では京都大学が学術書のOA化事業を推進
主にヨーロッパで加速する学術書OA化の流れは、日本にも波及しつつあります。国内では京都大学において、京都大学学術情報リポジトリKURENAIを用いて人文・社会科学系の学術書をOA化する事業が進められています。KURENAIは2006年に公開されて以来、国内における研究成果のOA化に貢献し続けており、2020年9月には世界リポジトリランキングで第3位(国内では第1位)となりました。学術書のOA化については、今後もますます期待が寄せられています。
転換雑誌の例
1.エルゼビア社のジャーナル160誌がPlan Sに準拠した「転換雑誌」として登録された
2.英・ケンブリッジ大学出版局(CUP)は209件のジャーナルをPlan Sに準拠した転換雑誌(transformative journal)にすることを約束
3.Springer Nature社はPlan Sに準拠した「転換雑誌」2誌を2022年に創刊する
参考文献
cOAlition S statement on Open Access for academic books
cOAlition S、学術書のオープンアクセス化についての推奨事項を発表
京都大学図書館機構 2020年度 人社系国内出版書籍のオープンアクセス(OA)化事業(和書)
世界リポジトリランキングの2020年9月版が公開