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研究の再現性を高めるためのさまざまな取り組み

さまざまな科学分野において研究の再現性が問題となっているのは、日本に限った話ではありません。再現性が低い研究成果物の増加は世界的にも問題となっており、専門家によるセミナーの開催や推奨指針の公表など、さまざまな対策が講じられています。ここでは、再現性の問題がもたらす危機や、再現性の向上に向けたさまざまな取り組みについてご紹介します。

再現性の低い論文のほうが引用されやすい

カリフォルニア大学のMarta Serra-Garcia氏とUri Gneezy氏の2021年に公開された研究論文(Nonreplicable publications are cited more than replicable ones)では、再現性のある論文よりも再現性の低い論文のほうが引用されやすいと報告されています。その理由について両氏は、再現性の低い論文によって導き出された結果がより興味深く見える場合に、そちらの論文がジャーナルアクセプトされやすいというトレードオフが起こっている可能性を示唆しています。

別の研究者が新たな論文を執筆する際に再現性の低い論文が引用されてしまうと、研究の発展を阻害するだけでなく、研究グループや科学そのものへの信頼が揺らぐおそれもあります。先行研究が再現できない場合、データの恣意的な選択や改ざん・捏造にもつながりかねません。研究者自身が再現性の高い論文を引用するよう心掛けることはもちろん、ジャーナル側にも再現性が高い論文を精査しアクセプトすることが求められています。

再現性の問題を解決するには

欧州委員会において科学技術分野の政策を取りまとめる研究・イノベーション総局(DG-RTD)が、2020年12月に再現性の問題に関する報告書を公開しました。再現性が低下する原因のほか、研究者や出版社などの取り組みや、具体的な解決策などがまとめられています。

この報告書には、再現性の危機を防ぐために優先的に介入すべき領域として、「ガイドライン」「キャリアと育成」「助成制度」の3つが明記されています。ほかにも、再現性のある研究のためにインセンティブや報酬を提供すること、刊行物にもチェックリストやガイドラインを設けること、研究データを自由かつ公正に再利用することができるようオープン化を図ることなど、具体的な解決策が多数リスト化されています。

各研究者や研究機関、出版社などがこのリストに目を通し、研究の再現性を向上するための具体的な行動を実践することは、さまざまな研究分野の発展のためにも重要といえます。

再現性の高い研究成果に付けられるバッジ

研究者の利便性を高めることを目的として、研究論文にはさまざまな評価指標に基づくバッジが付与されることがあります。研究の再現性に関するバッジとしては、2021年1月に米国情報標準化機構(NISO)が「NISO RP-31-2021, Reproducibility Badging and Definitions」という推奨指針を公表しています。

これまでにも、学会や出版社などが独自に研究再現性に関するバッジを定めていましたが、バッジの種類や定義が統一されていないことが問題視されていました。各機関では個別に蓄積されていたものの連携が取れていなかったことを受けて、研究の再現性に関するバッジをNISOが取りまとめ、標準化されたアプローチとして統一しました。

このバッジについては指針が公表されたばかりで、有効性についてはまだ検証されていません。しかしながら、たとえばオープンデータとオープンマテリアルの2つのバッジを付与することでデータの公開率が向上したという結果があるように、論文に付与されるその他のバッジには一定の効果が見られるものもあります。このことからも、このバッジが再現性の向上に寄与することが期待されています。

研究者としては、バッジを参考に再現性の高い研究成果を引用することや、NISOの推奨指針に即した再現性の高い研究を行うことが求められます。

参考文献

複製可能性のない論文は、複製可能性のある論文よりも引用される(文献紹介)
Nonreplicable publications are cited more than replicable ones
欧州委員会の研究・イノベーション総局、欧州における研究成果の再現性についての報告書を公開
Reproducibility of scientific results in the EU
米国情報標準化機構(NISO)、研究再現性に関するバッジ付与についての推奨指針を公表
NISO’s Recommended Practice on Reproducibility Badging and Definitions Now Published
デジタルバッジは研究者のデータ共有を促す(記事紹介)

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