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研究成果のオープンアクセス(OA)化推進を巡って

研究成果というものを従来の購読型論文に代わって、誰もが無料で閲覧できるオープンアクセス(OA)化することを推進する試みが、現在盛んになされています。しかし、この試みには様々な問題点も浮上するため単純な話ではありません。今回は、研究成果のOA化推進を巡る世界的な試みと今後の課題について論じたいと思います。

シュプリンガー・ネイチャーでは、2021年1月よりNature および32種類のNature関連リサーチ誌に投稿する全ての著者が、ゴールドOA形式での出版が可能になるという新しいルールを発動させることとなりました。これにより、Nature およびNature関連リサーチ誌は、選抜の厳しい購読型ジャーナルの中で初めて、著者らに自著論文を即時OA化するという選択肢を与えるジャーナルとなるのです。さらにシュプリンガー・ネイチャーでは提案型(guided)OAと呼ばれる世界初の新しい形式を導入する試みも始めました。

提案型(guided)OAは現在試験的運用の段階ですが、このOAでは、まず論文著者が最初は6種類のジャーナルを対象とし、著者は1回の投稿で、それら複数種類のNature関連雑誌の1つにOA論文として出版されるチャンスを得ることができます。この試験的運用に同意する著者は、まず編集評価料(Editorial Assessment Charge)を支払います。その後、ネイチャー・リサーチの編集者が著者に対して、外部査読を含む広範なフィードバックを編集評価報告書(Editorial Assessment Report)の形式で提供します。対象のジャーナルの1つへの論文掲載が決定した場合は、著者らが補填論文掲載料(top-up APC)を支払った後で論文の即時OA化が実現するのです。

出版社の利益を巡る問題点

全世界における学術論文を、購読型からOA化に移行するのは単純な事ではありません。なぜなら、それによって営利的打撃を受ける出版社が多く発生するだけでなく、論文著者に掛かる経済的負担も深刻になることが懸念されるからです。欧州を中心とした研究助成機関のコンソーシアムcOAlition Sのイニシアティブ「プランS」が、2021年1月に発効したことを受け、米国科学振興協会(AAAS)のScience誌Vol. 371, Issue 6524掲載の Open access takes flightという記事が発表され、研究成果のOA化推進を巡る様々な問題点が指摘されています。

代表的な問題点としては、まず論文のOA化というものが論文出版社の購読料収入を脅かすであろうという懸念が挙げられています。また、ハイブリッド誌においてはこれまた購読料の減少を補うためにOA化における論文掲載料を高くする可能性があることも指摘されています。さらに、研究成果のOAによる出版が一般的になると、論文掲載料を捻出することが可能な先進国の特定分野の研究者にのみ恩恵が偏る可能性もあるでしょう。購読料収入に依存する小規模な非営利団体も打撃を受けてしまう恐れがあります。

権威ある学術雑誌での出版のみを重視する意識に改革が必要

研究者は従来から、世界的に権威のある購読制の論文出版社に自分の論文を投稿し、アクセプトさせることを重視してきました。しかし、そのような購読制の論文出版社は年々論文購読料をつり上げる傾向が顕著になっており、一般の読者たちへの論文の普及がOA論文に比べて非常に悪いのが実情です。

OA雑誌であれば全ての人が無料で論文全文を閲覧できるため、世界的に見ても論文の普及度が高く、ノンアカデミアの者にとっても読む機会が増え、それぞれの論文に対する広範なディスカッションが生まれることが期待されます。

全世界の論文を全てOA化させるのにはまだまだ年数が必要とは思われますが、まずは研究者たちだけでなく、彼らの所属する研究機関の研究評価者らも含めて、従来のような権威ある学術雑誌での出版のみを重視する意識を改革し、もっと積極的にOA雑誌出版社への論文投稿をし、OA論文というものの需要を増やしていくことが重要なのではないでしょうか。

参考文献

Springer Nature シュプリンガー・ネイチャーがNatureおよびNature関連リサーチ誌においてゴールドオープンアクセス出版のオプションを2021年1月より提供開始
National Diet Library 「プランS」の発効と研究成果物のオープンアクセス(OA)化を巡る最新の論点(記事紹介)

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