査読前の医学論文はどこに投稿する? 公開する前に知っておくべきプレプリントサーバーの特徴
いわゆる学術雑誌の「査読」を通過する前に、自分の研究成果を全世界へオープンにできる、プレプリントサーバー(プレプリントサーバーの概要についてはこちら)。
権威ある科学雑誌への投稿ではありませんが、プレプリントサーバーへ投稿するとすぐに公開されるため、共同研究者を探すことや、世界中の研究者から貴重な意見を受けることもできることから、注目を集めています。
物理学分野から始まり、バイオや医学まで
プレプリントサーバーの歴史を紐解いてみましょう。1991年に、高エネルギー物理学分野においてプレプリントをWebサーバー上で公開するという新しい仕組み、「arXiv」の運用がスタートしました。その後、いくつかのプレプリントサーバーが登場し、物理学、社会科学、数学、経済や統計などの分野へ拡張されました。しかし、2000年代に入るまでは分野が限定されており、2013年に生命科学分野の「BioRxiv」が開設されたことで、一気に利用が広がったといわれています。
それでは、代表的ないくつかのプレプリントサーバーについて見ていきましょう。
arXiv(1991年~)
2020年8月現在、コーネル大学のスタッフが運営しており、175万件以上のプレプリントが公開されています。物理学からスタート、現在は数学、情報学、経済学、統計学など他分野へと拡張しています。
SSRN(1994年~)
2020年8月現在、Elsevierが運営しており、95万件以上のプレプリントが公開されています。応用科学、健康科学、人文科学、ライフサイエンス、物理学、社会科学などの分野にてプレプリントの投稿ができます。
BioRxiv(2013年~)
2020年8月現在、コールド・スプリング・ハーバー研究所が運営しています。生命科学として生化学、バイオエンジニアリング、生物物理学、がん生物学、細胞生物学、遺伝学、病理学などのプレプリントが公開され、開設からの5年間で3万8千件近くのプレプリントが投稿されました。現在は、月間100万件以上のダウンロードがあり、その多くは神経科学、バイオインフォマティクス、ゲノミクスに関するものです。
PsyArxiv(2016年~)
2020年8月現在、心理科学改善のための協会(Society for the Improvement of Psychological Science)などが運営しています。心理学研究を目的としており、臨床心理学、認知心理学、発達心理学、教育心理学などの分野でのプレプリントが公開されています。
ChemRxiv(2017年~)
2020年8月現在、米国化学協会(ACS)、中国化学協会、日本化学協会、ドイツ化学協会(GDCh)および王立化学協会が共同運営しています。化学を中心としていますが、生物化学および医薬品化学、農業と食品化学、エネルギーなど16の分野でのプレプリントが公開されています。
MedRxiv(2019年~)
2020年8月現在、イエール大学、コールド・スプリング・ハーバー研究所、BMJが共同で運営しています。医学が中心ですが、アレルギー・免疫学、麻酔学、循環器内科学、歯学・口腔医学、皮膚医学、救急医学、内分泌学、疫学、法医学、消化器学など、投稿できる分野はさらに細かくカテゴライズされています。開設当時は1か月で30件程度が公開されましたが、直近の3ヶ月では毎月1,500件程度が公開されており、開設から1年と3ヶ月で合計1万件を超えています。 新しく投稿されたプレプリントは、Twitterでも紹介されています。
それぞれの特徴を踏まえ、研究内容に合ったプレプリントサーバーへ投稿しよう
前述の通り、BioRxivとMedRxivは実際にプレプリントを投稿できる分野としても共通している部分があり、2020年8月現在、この2つのプレプリントサーバーでは、「新型コロナ」に関するプレプリントを、横断的に検索できるサービスを提供しています。違いとしては、医学の基礎研究ならBioRxiv、臨床医学ならMedRxivの方が適切と考えられる点でしょうか。
いずれにしても、研究内容に沿ったプリントサーバーと分野で公開されると、同じ分野で研究に励む世界中の研究者の目に留まることになり、より多くの助言や共同研究先の探索につながる可能性があります。
また、MedRxivでは、BMC MedicineやPLOS Oneなど、さまざまなジャーナルに対して原稿ファイルとメタデータを直接送信することができます(2020年8月現在、80のジャーナルに直接送信が可能) 。自分の研究分野とジャーナルへの投稿なども鑑み、投稿先と投稿する分野は適切なものを選びましょう。