研究活動における不正行為とは~どのようなものが「不正行為」に?
中国の台頭をはじめ、世界の科学研究分野では熾烈な競争が繰り広げられています。また、国内においても予算や人材の確保などで各研究機関は常に競争関係にあると言えます。
そんな「競争」に晒された科学研究の場では、残念ながら「不正」が起こりやすいのも事実です。そこで、文部科学省は平成27年4月に「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」を作成しました。現在、各研究機関は研究者の不正に対し、このガイドラインに遵守した対応を取ることが求められています。
今回は科学研究活動における不正行為とはどのようなものか、また講じられている予防策について詳しく解説します。
研究活動における不正行為とは?
科学は長年に当たって先人たちが積み重ねてきた尊い歴史があります。その研究の場での不正行為は、長い歴史を冒涜する行為であり、科学技術の発展を妨げることにつながるものです。また、場合によっては人々の生活や健康に何らかの不利益を与える可能性も否定できません。さらに、科学技術研究には莫大な国費が費やされており、国民が信頼できるような公平性の確保が強く求められています。
「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」は、このような考え方を背景に作られました。その中では、具体的にどのようなことを「不正行為」としているのでしょうか?
得られたデータや結果の改ざん
研究活動は「先人たちが行った研究の諸業績を踏まえた上で、観察や実験等によって知り得た事実やデータを素材としつつ、自分自身の省察・思想・アイディア等に基づく新たな知見を想像し、知の体系を構築していく行為」と定義されています。
そのため、実験などで得られたデータや結果を改ざんするということは、科学研究の根本を崩す行為として厳しく罰さられる対象とされています。
研究成果等の盗用や不適切な執筆者情報
他の研究者の成果を登用するのは決してあってはならないことですが、近年では既に発表されたり投稿中の論文などと本質的な違いのないものを自身の成果として発表したりする「二重投稿」が問題となっています。二重投稿は「盗用」には当たらないものの、科学研究の独自性を損なうことにつながり、多くの学術誌や学会で禁止されている行為です。さらに、論文著作者が適正に公表されていない「オーサーシップ」なども不正行為として厳しくチェックされます。
不正行為を未然に防ぐために行われている取り組みとは?
では、このような不正行為を未然に防ぐため、各研究機関ではどのような取り組みがなされているのか詳しく見てみましょう。
不正行為を抑止するための教育
各研究機関は、雇用する研究者に対して研究倫理教育を確実に実施することが求められています。そのためには、研究データの管理方法、記録媒体の作成方法などの規律を周知し、研究活動に関して守るべき作法の知識や技術などを学ぶための研究が行われています。
また、産学官連携も進んでいるため、守秘義務の遵守についても厳しい教育を実施する研究機関が増えているのも近年の特徴といってよいでしょう。
研究データの保存・開示
研究データの改ざんなどの不正を防ぐためには、一定期間の研究データを保存・開示することが求められています。それによって一定期間は第三者が研究成果を検証することが可能となり、不正行為の抑制に働くだけでなく、疑いがかけられた研究者が自らの潔白を証明することも可能になるのです。
「当たり前」のことと「当たり前」に予防することが大切!
このように科学技術分野での不正行為と定義される行いは、研究者以外の人でも誤った行為と考えるような「当たり前」のものですが、現実の研究の場ではこのような不正行為も横行しているのが現状です。
倫理教育やデータの保存・開示などを行うことで不正行為を未然に防ぐことができると考えられる一方、あえて故意に不正を働く研究者にとってはこのような規定を無視して不正行為を続行するケースもあるでしょう。次回は、科学研究の不正行為についてどのような措置が取られるかについて解説します。