科学技術の現況に係る総合的意識調査2019~研究資金調達の現状とは?
今回で5回目を迎えた科学技術の現況に係る総合的意識調査(NISTEP定点調査)。文部科学省による同調査は、日本の科学技術やイノベーション創出の現況変化を把握すべく、2016年から継続的に実施されています。調査対象者は産学官の第一線で活躍する研究者や有識者であり、2019年度の調査でも90.6%(回答者数2456名)という高い水準を維持しています。
そこで今回は、この調査から見えた科学技術研究分野に於ける研究資金調達の現状について詳しく分析します。
現在の日本の科学技術研究分野の経済的基盤はどうなっているのか?
NISTEP定点調査は、同じ質問項目が毎年繰り返して行われます。そうすることで、前回の調査時よりどれくらい現況が改善しているのか、または悪化しているのか比べることができるわけです。
2019年の調査に於いて、前回調査より最も評価を上げた項目は「新たな課題の探索・挑戦的な研究に対する科学研究助成事業(科研費)の寄与」でした。その理由としては、科研費の制度として若手や萌芽的な研究に対する助成が充実してきていること、若手研究の枠が拡大したことなどが挙げられています。
一方で、前回調査より最も評価を下げた項目は「科学技術における政府予算の状況」であり、そのほかにも「研究開発における基礎的経費(内部研究費等)の状況」や「優れた研究に対する発展段階に応じた政府の公募型研究費等の支援状況」なども上位に上っていることが分かりました。その理由としては、競合する諸外国の政府予算が増加していることに比べ日本では予算分配が不十分であること、予算の分配方法が偏っていて有効な活用がなされていないことなどが挙げられ、さらに常勤職の確保が難しいことが研究職を目指す優秀な人材の芽を摘んでいるとの厳しい指摘もあります。
研究者・有識者の声から読み解く日本の研究資金課題とは?
このように、NISTEP定点調査2019では、科学技術分野の研究資金にはさまざまな課題があることが伺えました。
今回の調査では、多くの研究者・有識者が科研費の寄与を大きく評価している一方、政府の予算がまだ不十分であること、適正な分配がなされていないことを危惧していることがわかります。新たな挑戦的研究や若手研究者への分配自体は増えていますが、中国をはじめとする科学技術分野で新たに台頭する国々に対抗できるだけ十分な研究費は確保できていないのが実情です。また、基礎的経費は年々減少しており、学会参加費すら捻出できない研究者も少なくないとのこと。ただでさえ経済状況が厳しい研究者にとって、経済的な理由で研究生活を続けていくのが困難なケースもあると考えられます。
さらに、近年では施設や設備の老朽化が進む機関も増えており、新たな設備導入・修理の予算が確保できずに研究活動を中断せざるを得ないケースもあるようです。
科学技術分野の国際的な競争が激化している昨今、研究者が安定した経済基盤の元で研究に従事することは必要不可欠です。また、施設や設備も現在の科学技術研究に適したものが揃っていることが望ましいのは言うまでもありません。
今後日本の科学技術が国際競争の中で生き残っていくためには、予算の抜本的改革や適正分配に向けたシステム作りが必要になることと考えます。