科学技術の状況に係る総合的意識調査2019年から読む産学官連携の現状とは?
2016年から文部科学省によって行われている「科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP定点調査)」の2019年度版の結果が公表されました。今回で4回目となるこの調査は、一線級の研究者や有識者に対し、日本の科学技術の現状への意識調査を継続的に行っています。
そこで前回に引き続き、2019年の調査結果から浮かび上がってきた産学官連携の現状と今後の課題について詳しく解説します。
調査結果から読み解く科学技術と産学官連携の現状について
NISTEP定点調査では、産学官の一線で活躍する研究者や有識者に、6つのパートに分かれた計63問の質問と自由回答式のアンケートを行い、前年の回答と比較することで日本の科学技術を取り巻く状況をリアルタイムに知ることができます。
6つのパートの中には「産官学連携とイノベーション対策」に関する項目もあり、今回の調査では63の全質問の中で回答者がポジティブな意識をもっている項目トップ10の中に「産連携・協議を通じた新たな価値創出」、「産学官の組織的連携を行うための取り組み」がランクインしています。
さらに、2016年から2019年にかけてポジティブな意識がアップした項目を見ると、「ベンチャー企業の設立や事業展開を通じた知識移転や新たな価値創出の状況」と「産学官の組織的連携を行うための取り組み」が上位にあるとのこと。多くの研究者が科学技術の発展のためには産学官連携が重要であるとの考えを持っていることが伺えます。
日本の科学技術と産学官連携の今後の課題とは?
一方で、産学官連携の重要性に関する意識は大学・公的研究機関と民間企業の間に大きな隔たりがあることも分かりました。産学官の重要性が「上昇している」・「どちらかといいうと上昇している」と回答した大学・公的研究機関の回答者は88%にも上ったのに対し、民間企業は68%に止まるとのこと。
その背景には両者の産学官連携に対する根本的な考え方の違いがあることが考えられます。大学・公的研究機関では「共同研究収入等を得る」ことに重きを置いていますが、民間企業は「外部の人的リソースへのアクセス」を重視していることが分かりました。一方で、両者には共通して「招待有望となる新しいシーズを生み出すこと」、「新しい技術トレンドを社会に還元すること」、「既存の産業や業種を超えた連携に貢献するため」といった高い意識も…。
産学官連携を成功させて科学技術を発展させていくには「産」・「学」「官」がそれぞれ目標や意識をそろえていく必要があります。今回の調査では、「学」・「産」は研究資金の不足があり、「産」は人材の不足があることが浮き彫りに。今後の科学技術の発展のためには、それぞれの問題点を「産」・「学・「官」の三者が上手く補い合って、いずれかに負担がかからないような連携づくりが必要と考えられます。
また、「産」・「官」・「学」共に「国際競争への対応」という意識が浅いことも浮き彫りに浮き彫りになりました。中国をはじめとする科学技術分野の新興国の台頭が著しい昨今、日本の科学技術が国際社会の中で生き残っていくには、三者が協同して国際競争へ参入していくことが必要となるでしょう。