アジアの新興大学における高度な研究とその課題
アジア地域には、新旧含めて数多くの大学が存在しますが、SPRINGER NATUREではこの度、アジア諸国における新興大学の研究成果ランキングを調査するという企画を始めました。その結果、アジアの新興大学が、予想以上に沢山の質の高い研究成果を上げているという興味深い傾向が見えてきました。
新興大学に絞った調査を開始
NATUREでは、アジア諸国における新興大学の順位付けを行った「Nature Index Young Universities」という企画を2019年に入ってから初の試みとして行いました。ここでは、設立後50年以内の大学を新興大学と定義付け、大きく分けて二つの評価法でそれらの大学の研究成果をランキングしました。
まず一つ目は、「Nature Index Young Universities」という評価ランキングで、新興大学をFractional Count(FC:ある論文に対する各共著者の相対的貢献度を考慮に入れるカウント法)で順位付けする方法、二つ目は、「Rising Young Universities」といい、新興大学を、2015〜2018年にFCがどれだけ上昇したかによって順位付けする方法です。
高度な研究成果を出す新興大学はどの国に多いか?
Nature Index Young Universitiesのランキングを見ると、主に中国、韓国、シンガポール、ドイツ、オーストラリアなどの新興大学が上位50位以内に入っていました。我が国の新興大学では、沖縄科学技術大学院大学(OIST)がYoung Universitiesランキングの第29位に入っており、日本の新興大学ではトップとなっています。また、上位50位以内には入れなかったものの、総合研究大学院大学(総研大)、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)、及び首都大学東京の3校もYoung Universitiesランキングの上位100校にランクインしています。
さらに沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、Rising Young Universitiesのランキングにおいては、中国の4大学に並びアジアの新興大学の中では5位に位置付けられていました。残念ながら、日本はOISTを除いてはRising Young Universitiesの上位25位以内に入った新興大学は一つもありませんでした。
我が国においても画期的な研究を行える基盤を
Nature Index Young Universitiesのランキングを今回初めて行ったNature Indexの創設者David Swinbanks氏は、今回の調査結果について、「興味深いことに、最も成功を収めている新興大学の多くが共通した特性を持っていることが明らかになりました。こうした新興大学は、多くの場合、古くからある機関が持つ伝統にしばられておらず、学際的な文化が強く、創造的思考を促進し、誇りを持って若手・中堅研究者にリーダーシップの機会を提供しています。こうした方法はさらに、多様な学生を惹きつけて、革新を促す型破りな研究を追求するのに役立っています」とコメントし、画期的な研究には古い伝統に縛られず、若手研究者らが中心となって積極的に研究を行う事の重要性を強調しています。
果たして我が国においては、新興大学の研究を発展させる基盤が十分に整っているといえるでしょうか?我が国では、近年世論として、若手研究者らの活躍を積極的に支援する体制の整備が遅れていることが危惧されています。実際、今回のNature Index Young Universitiesのランキングで見ても、日本の新興大学の上位100位以内へのランクイン数が少ないのが現状といえます。そのため、今後はできるだけ若手の研究者を中心に、文部科学省などによる長期的研究支援事業などを大いに活用し、世界的に画期的だといえるような高度な研究を、じっくり長い年月を掛けて行っていく必要があるのではないでしょうか。