令和元年の科研費分配~研究機関別・審査区分別を分析~
令和元年は科研費の予算がアップしたことに伴い、新規採択は2万8992件、継続分と合わせると7万8650件に対して約2154億円が分配されています。応募数自体は前年に比べ若干減少しているものの、採択率は12.0%も増加しており、国も様々な分野の研究を後押しする形となりました。
前回までは、研究種目別、研究者の属性別に分析した科研費の現状を解説しましたが、今回は研究機関別と審査区分別について詳しく見てみましょう。
採択された研究機関の特色とは?
研究機関別の新規採択数の割合を見ると、国立大学が51.8%(14972件)とトップであり、続いて私立大学28.8%、その他(国立研究開発法人、大学共同利用機関法人、短期大学、高等専門学校等)11.5%、公立大学7.9%の順となっています。一方、分配額の割合は国立大学が最多の60.7%(401億円)を占め、他の研究機関と比べて突出した額が分配されているのが現状です。このようなことから、国立大学は他の機関に比べて1件当たりの分配額が大きく、コストのかかる大掛かりな研究をより多く行っていることが伺えます。
また、研究者登録人数と新規応募件数との比率を各研究機関別に比べると、国立大学が55.9%と最も高く、次いで公立大学43.4%、私立大学21.0%とのことです。私立大学は採択件数と分配額ともに国立大学に次ぐ割合であることを考えると、研究者は多いものの研究自体への積極さはやや低いことが予想されます。
しかしながら、研究機関別の採択数比率の年次別推移を見ると、私立大学はこの10年間で拡大傾向が続いていることがわかります。逆に国立大学の比率は年々少なくなっており、国大学立と私立大学の差は狭まりつつあるのが現状です。このため、研究を積極的に行う私立大学も増えてきたことに伴い、医学研究の分野を含め、今後も益々国立大学と私立大学の格差は少なくなっていくことも予想できます。
どの分野の研究の採択率と分配額が多いの?
最後に、審査区分別(研究分野)に分析してみましょう。
科研費の審査区分はA~Kまでの11つの大区分に分けられており、その中で最も高い新規採択件数割合を占めたのは「医・歯学関連」の32.5%(8931.5件)です。次いで、「人文学・社会科学関連」23.2%、「工学(機械、電気電子、土木等)関連」7.4%と続きます。
一方、新規分配額の割合を見ると、「医・歯学関連」は24.0%(155憶)と採択件数の割合から見ると低い水準となっています。
このことから、「医・歯学関連」区分は1研究あたりの分配額が少なく、コストがかかる大規模な研究は少ない傾向にあることがわかります。なお、数物系化学や工学、化学、生物学、農学などは新規採択比率よりも分配額の割合の方が高く、大規模な研究が多いと考えられます。これは、コストのかかる基礎研究を行うケースが多いことが起因と言ってよいでしょう。
まとめ
3回にわたって科研費の分配状況を詳しく解説してきました。研究種目、研究者の属性、研究機関、研究分野などのすべての項目から現在の日本の様々な研究の課題などが見えてきたことでしょう。
医学分野では女性や若手の活躍も目立つようになっており、今後も世界に競争できるような研究が進んでいくことが期待されています。