Science News

若手研究者支援事業を有効活用しよう

これまでの我が国では、研究者を若いうちからレベルの高い一人前の研究者に育て上げるための事業が、とても十分とはいえない状況でした。このままでは、日本という国そのものが高度に国際化した研究者社会の発展に取り残されるだけでなく、若手研究者の生活の安定すらも、ままならなくなる恐れがあります。そのため、最近になって様々な機関において、博士課程の学生も含めた数多くの若手研究者を、一流の研究者として活躍する機会を与える事業を開始しています。

国際社会の波に日本の研究者が取り残されないために

近年、我が国の研究者における国際的研究の遅れが危惧されています。例えば、近年における被引用回数上位10%論文における国際シェアが、日本は低下しつつあります。こういったことから、文部科学省では、国際共同研究において日本が取り残されてしまう可能性を示し、国際共同研究の強化を進めることを提言しています。

実際に、京都大学では、海外の大学との若手研究者を主体とした共同研究を促進する試みの一つとして、ドイツ学術交流会(DAAD)と共同で若手研究者らが独自に国際共同研究を行うためのマッチングファンドを、2018年より立ち上げています。京都大学では過去にも、若手研究者を支援するための学内ファンドなどを設けていましたが、主として助教以上の研究者が対象でした。そこで今回のファンドでは、参画のための対象年齢を大幅に引き下げて、博士課程学生から博士学位取得後5年以内までの若手研究者を対象に、留学資金を拠出するというシステムにしています。

SDGs達成に貢献する若手研究者の育成を

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)とは、世界の課題に取り組むことを目的とした共通の国際目標のことです。2015年に193の国連加盟国によって採択された概念です。

先に述べた京都大学のマッチングファンドにおいては、SDGsを達成するための研究目標を掲げる日独双方の若手研究者が対象となります。そのような若手研究者に対して留学資金を拠出する事で、若いうちから国際共同研究に貢献する機会を増やすことを趣旨とした試みとなっています。

また、学術雑誌出版大手のシュプリンガー・ネイチャーでも、SDGs達成の重要性を強調し、当社でもSDGsに貢献する若手研究者をトレーニングするための独自のプログラムを、オンライン講座として配信しています。

文部科学省の支援事業も有効活用を

我が国の文部科学省もまた、若手研究者の育成を促進するための予算支援事業を始めています。この事業において文部科学省は、若手研究者らを対象に最長で10年間のスパンで、年平均700万円程の研究予算を拠出する見込みです。

これらの予算は、原則として40歳までの年齢層の若手研究者を対象に配布されるものであり、入手した予算は研究や海外渡航などといった様々な用途で使用できます。この事業の大きなメリットは、予算の支援が最長で10年間もあるという事でしょう。これまでも、若手研究者を育てるための予算支援は、国のみならず様々な民間企業や団体が主体となって行ってきましたが、ほとんどの場合は2~3年以内などといった短い年数のみの支援であり、長い年月に渡ってじっくりと人材を育成するという取り組みは、ほとんどなされてきませんでした。

若手研究者は、いずれ一人前の研究者として自立する事が重要であるため、博士課程に在学中の学生やポスドクの研究者、あるいは博士課程への進学を考えている修士課程の学生などは、時間のある時にでも、国やあるいは国内外の大学・団体などが行っている研究予算支援事業などの動向に目を通し、興味があったらできるだけ多く応募し、自分自身の研究の発展や、就職先確保のための足がかりとして活用する事をお奨めします。

参考文献

nature asia 「若手研究者支援の新たな取り組み」

  • 英文校正
  • 英訳
  • 和訳
※価格は税抜き表記になります