研究の再現性の重要性と論文を読む際の注意点
一般に、論文などの形ですでに公表されている研究について、第三者がその研究で使われていた材料・方法などを用いて同じ実験を行った場合に、元の研究者(研究チーム)が行った時と同様の結果が出るようであれば、その研究は「再現性が高い」といえます。しかしながら、昔から科学の世界では、すでに論文などで発表されている研究について、再現性が低い事で問題となっています。
再現性の低下はどういった問題を引き起こすのか?
もし論文を読む研究者がその論文を発表したチームの外部の人間であれば、その研究を行うのに必要な設備・材料などがほとんど無い状態から、それを模倣しなければならないことが多々あります。
そのため、その論文自体の研究内容が、きちんとした再現性の評価を行わないまま発表されたものであれば、それを模倣した研究者の出す実験結果が、論文中に書かれている結果と大きく相違したものになる可能性が高くなります。そうなると、その研究者は実験手法そのものの再検討作業を、自らのアイディアで行わなければならなくなり、多大なコストがかかってしまう恐れもあります。加えて、再現性の極めて低い研究成果が学術論文として多数発表されてしまうと、その学問分野そのものの信頼性や地位を大きく低下させることにもつながり、学術面での倫理上望ましくありません。
どういった要因で再現性の低下が生じるか?
もちろん、第三者が読んで模倣した場合に、100%同じ結果を出せるような論文などというものを作るのは、現実的に難しいです。しかし、第三者がその通りに行った場合に、同じ結果を出すのに失敗してしまうような、再現性の低い論文が多いといわれています。
なぜ再現性の低い研究論文になるかついて論ずると、一般に多く見られるのは、「結論を出すのを急ぎ過ぎて、再現性の評価がなおざりになってしまう」というパターンだと思われます。特に近年は、民間企業や外部団体からの、外部資金に依存した研究を行っている研究者が多くなっています。その結果、研究成果を早期に出すことを義務付けられ、あるいは互いの利害関係などから、自分達に都合の良い結果のみを論文中に記述し、都合の悪い結果については、ほとんど言及しない、というパターンに陥ることあります。そのことが原因となり、第三者が模倣した時に、論文の中に書かれている結果と大きく違った結果が出てしまうという現象がみられるようになります。
その他にも、生物科学などの分野であれば、検体として扱う生物そのものの品種や系統などの違いだけでなく、その生物の健康状態や個体差なども原因で、再現性の低下がもたらされることも考えられるでしょう。
論文は教科書とは違うということを念頭に
今まで、論文を書く側の研究者における問題点について論じてきましたが、ここでは、すでに発表されている論文を読む側の研究者が、今後気を付けなければならないことについて論じたいと思います。
まず、念頭に置いて欲しいのは、論文というものは教科書とは違い、その研究分野全てについて当てはまるような概念を説明する書物ではない、ということです。あくまでも、こういった実験材料・手法を用いてこういう研究をしたら、このような成果が得られた、という一例を示した成果発表に過ぎないのです。しかしながら、論文の読者の中には、論文の中に明記された実験方法などを鵜呑みにしてしまい、まるでその論文、あるいはその論文を書いた著者の続編論文などを、実験手法を覚えるための教科書代わりにしてしまっているような研究者も一部には見られます。もしもその論文の内容が再現性の低いものだった場合、上述のようなリスクが生じてしまうことでしょう。
これを防ぐには、まず読む側の研究者が、その論文に書かれていることを鵜呑みにせず、「この部分を別な手法に置き換えて行った方がうまく行くのではないか?」などと、自分独自のアイディアを巡らせながら論文を読む事が重要だと思います。また、単一の著者あるいは同じ研究チーム所属のメンバーが書いた論文だけでなく、できるだけ色々な研究グループの研究者らが書いた論文を数多く収集し、それらを総合して自分自身の実験計画を立てるための参考にすることも大事でしょう。
研究というものは、自分自身のアイディアで進めるのが理想なのですから、論文を読む際も、今後の自分の研究を進めるのにプラスになるような、創意工夫のある読み方をすることが必要なのではないでしょうか。