論文撤回のプロセスと透明性
一度発表された論文に何らかの不正やミスが発見された場合、その論文は撤回されることなりますが、プロセスや原因が明らかでないことも多々あります。そこで、イヴァン・オランスキー氏らは撤回論文のデータベースをブログ「Retraction Watch」に公開し、撤回プロセスの透明性で学術誌をランキングすることを提案しています。
そこで今回は、論文撤回のプロセスとその透明性について詳しく解説します。
論文撤回とは?
インターネットが普及した昨今、論文は即時的に世界中の研究者たちに読まれるようになりました。紙面上の活字のみだった時代に比べ、発表された論文は多くの人の目に触れるようになり、その分だけ論文の正当性を正しく評価することが必要になっています。
学術論文の出版規範を議論・制定するイギリスの非営利組織「出版規範委員会」は、データの捏造や明らかな計算間違い、盗用、許可のない引用などが指摘できる論文は、撤回を考慮すべきとしています。
通常、1報の論文が学術誌に掲載されるには幾重もの査読を経て、編集者たちの裁可が下ります。このため、学術誌に掲載される論文は正当性のあるもののみが選び抜かれていると思われがちです。しかし近年、撤回される論文は増加しており、その数は年間500~600報にも上ります。割合としては、10000報のうち4~5報が撤回されていることになります。
撤回論文が増えている原因には、かつてよりも多くの研究者の目に触れるようになったことでこれまで見過ごされていたような些細なミスを指摘される機会が激増したこと、コピペソフトなどの進歩で盗用を発見しやすくなったこと、研究者の不正行為自体が増えていることなどが挙げられます。
論文を撤回するにあたっては、著者や学術誌の編集者は紙面やweb上で撤回表明を行います。しかし、著者や学術誌の信頼性を守るため、どのような経緯で撤回に至ったか明らかにされないケースも多々あり、撤回論文に該当することが分かりにくいケースもあります。
論文撤回の透明性
論文撤回の背景は不透明な部分も多く、また撤回後もインターネットで公開が続けられているものも少なくありません。中には、撤回論文と気づかずに引用してしまう研究者もいます。
このような問題を解決すべく、イヴァン・オランスキー氏らは1970年以降に撤回された18000報の論文のデータベースを公開する「Retraction Watch」を立ち上げました。「Retraction Watch」では、撤回論文の著者、国、掲載された学術誌、撤回原因がデータベース化されており、月間の訪問ユーザーは10万人以上、閲覧数は60万にも上ります。
このデータベースは撤回論文の検索に役立つだけでなく、不正が疑われるデータや内容を公開することでどのような点が正当性に欠けるのかを研究者が考え、自身の研究の正当性維持に応用することにつながります。
また、オランスキー氏らは、これらのデータベースから学術誌に対して「透明度指数」を設定し、その透明性の高さによって学術誌のランキングを行うことを提案しています。このような透明性におけるランキングはこれまで行われてきませんでしたが、研究者たちは引用する学術誌選別の参考にすることが可能となり、学術誌の編集者は透明性の維持に努めるようになることが期待されます。
まとめ
論文の撤回は増加傾向にあるため、論文を引用する際は「Retraction Watch」などのデータベースを活用して論文の正当性を確認する必要も生じつつあります。また、自身の論文に対しても様々な角度から評価を受けることを忘れず、正当性を担保した研究・論文執筆を行っていく必要があります。