研究者SNSにおける学術論文の扱いと今後の課題
インターネットが普及して以来、研究者は自分自身の研究成果をPRするために、ウェブをよく使うようになりました。独自にホームページを開設してPRする手段や、大学・研究機関などのホームページ上で行う方法がかつては主流でしたが、現在では研究者SNSと呼ばれるサービスを利用して成果PRを行うやり方が普及しつつあります。そこで今回は、研究者SNSの利用方法の現状と、それに伴う社会問題に関してご紹介します。
研究者SNS利用目的の大半は論文無料入手
現在の研究者SNSとして有名なサービスには、Academia(サンフランシスコ拠点)、Mendeley(ロンドン拠点)、ResearchGate(ベルリン拠点)の3つが代表として挙げられます。いずれも2008年に開設されたSNSシステムであり、当初は研究者同士のコミュニケーションや、研究者自身のプロフィール紹介を行うための場として使われていました。
しかし、近年はこういった研究者SNSを、「論文を無料で入手するための手段」として利用する研究者が非常に多くなっていることが明らかになっています。どういう事かというと、研究者らの研究成果紹介のページに、本来は有料で購読すべき論文を含む多数の学術論文が掲載されているということです。そのため、インターネットを扱える環境にいる研究者であれば、それぞれの研究者SNSアカウントを取得しさえすれば、いつでもそのSNS上に掲載されている論文を、無料で入手することが可能となっているのです。そのような状況に対し激しい怒りの声を上げたのは、学術論文の出版社でした。
学術論文出版社による訴訟問題
大手学術論文出版社5社と米国化学会(ACS)で構成するCoalition for Responsible Sharing(CRS)という出版社連合団体が2017年に発足し、ResearchGateに対して、該当サイト内に無断で掲載されている有料購読制の論文を全て削除するよう勧告を送りました。続いて、ACSとElsevier社が、ドイツの地方裁判所に対し、ResearchGateの行っている手段は、著作権法に違反しているとして民事訴訟を起こしました。
ResearchGate側はこれを受けて、CRSに所属している論文出版社で発行している有料購読制の論文のほとんどを削除しました。一方で、CRSに所属していない論文出版社が発行している有料購読論文に関しては、削除の作業が進んでいません。また、民事裁判のほうも現在進行中で、今後ResearchGateのやり方が違法なのかどうかについての、本格的な司法判断が下されることでしょう。
研究者SNS運営者及び論文出版社の歩み寄りが重要
以上の事を振り返ると、動機や経緯はどうであれ、有料購読が義務付けられている論文を、全ての人間が自由に閲覧できるサイトに大量にアップロードする行為は、違法性が高い行為と考えられます。とはいえ、実際に論文を有料で(正規の方法で)入手しようとすれば、法外とも言える料金を請求されるのが現状となっているほど、論文の購読料は非常に高くなっております。
そのため、研究者をはじめとした一般の読者たちに対するメリットを考慮するのであれば、ただ単に違法行為そのものを裁判に訴えるだけでなく、最終的には研究者SNS運営側と論文出版社の歩み寄りが必要となるものと思われます。実際、Springer Nature社ではResearchGate側と協力して、現状システムの合法的改善に取り組む方針を示しました。それに加え、Springer Nature社は自社で発行している学術論文のうち2017年11月以降掲載のものを、ResearchGateと共有して無料で一定期間公開するというシステムを試行しています。
このシステムは原則として3ヶ月間実施される予定ですが、利用者の数などの推移を見て実施期間を延長する考えもあるといいます。近い将来、Springer Nature社のように研究者SNSと協同して、学術論文の無料公開に取り組んでくれる論文出版社ができるだけ多く増えれば、研究者らの研究成果PRに広く貢献でき、現状の問題が大きく改善されるのではないかと考えられます。
参考文献
1.動向レビュー:研究者SNSとそこに収録された文献の利用 坂東 慶太 情報の科学と技術 2018年68巻4号 p. 189-195
2.Academia
3.Mendeley
4.ResearchGate