最新のハゲタカジャーナル対策の動向
近年のハゲタカジャーナルへの対策として、中国とオランダの最新の取り組みについて解説します。また、近年横行している生成AIを悪用したハゲタカジャーナルの事例と、英語論文が生成AIによって執筆されたかどうかを見抜くシステムについてもご紹介します。
中国科学院による「早期警戒学術誌リスト」
中国科学院国立科学図書館のYang Liying氏らの研究チームは、危険な国際学術誌のリストの試行版を作成し、2020年から毎年更新しています。2024年にはリストの最新版として、「早期警戒学術誌リスト(Early Warning Journal List)」が公開されました。信頼性が低いジャーナルやハゲタカジャーナルなどのほか、中国の研究コミュニティーにとって利益にならないと判断された学術誌がリストに挙げられています。なお、2024年版からは新たに、引用操作(著者が引用数を水増しする不正行為)が見られる学術誌もリストに含まれるようになりました。
このリストは、学術上の不正行為に対して中国の省庁が通達を出す際に資料として添付されたり、研究機関のWebサイトで共有されたりと、その影響力は年々増しています。リストに掲載されている学術誌へ投稿する研究者は激減しており、一定の効果があると考えられています。
オランダ大学図書館・王立図書館コンソーシアムによる実践ガイド
オランダ大学図書館・王立図書館コンソーシアム(UKB)は、2024年に“Predatory and Questionable Publishing Practices: How to Recognise and Avoid Them”という実践ガイドを公開しました。これは、ハゲタカジャーナルやハゲタカ出版社へ論文投稿することのリスクや、良質なジャーナル・出版社の見分け方などを解説したものです。万が一、悪質なハゲタカジャーナルに論文を投稿してしまった場合の対処法についても解説されています。
例えば、ハゲタカジャーナルを見分けるためのキーガイドラインとして、以下の2点が挙げられています。
If it sounds too good to be true, then it probably is.
「うますぎる話を掲示するWebサイトは、おそらくそう(ハゲタカジャーナル)だろう」
迅速にOA出版することも大切ですが、厳格な査読プロセスには時間がかかることを理解しましょう。
It’s better to be safe than sorry.
「後悔するよりも、安全である方が良い」
出版へのプレッシャーがあったとしても、適切な投稿先かどうか、時間をかけて確認しましょう。
また、「2.3 Risk table」の章では、そのジャーナルがハゲタカジャーナルであるかどうかのリスクを判断する指標を表の形で紹介しています。Journal scope(ジャーナルの範囲)、Editorial and peer review process(編集およびピアレビューのプロセス)、Metrics, quality indicators, citations(メトリクス、品質指標、引用)、Indexing(インデックス)など、12の指標ごとに判断基準が解説されていますので、ぜひ参考にしてみてください。
ハゲタカジャーナルや悪質な生成AI論文に注意
学術界の汚染を防ぐためにも、自身の研究者キャリアを守るためにも、まずはハゲタカジャーナルに投稿することのリスクについて知りましょう。ハゲタカジャーナルを見抜くためのリストやWebサイトを活用すると同時に、生成AIを悪用した偽の論文にも注意することが大切です。ハゲタカジャーナルについては、以下の関連記事もご参照ください。
関連記事:ハゲタカジャーナルへの掲載は将来的なマイナス要因
関連記事:投稿先を見つけるヒント集のWebサイト「Think. Check. Submit.」
関連記事悪質なハゲタカジャーナルから身を守る
参考文献
Natureダイジェスト — 中国が作成した「疑惑の学術誌」リストの最新版
国立国会図書館 カレントアウェアネス-R — オランダ大学図書館・王立図書館コンソーシアム(UKB)、ハゲタカ出版社・ジャーナルを避けるための実践ガイドを公開
Predatory and Questionable Publishing Practices: How to Recognise and Avoid Them