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『科学技術指標2024』に見る日本の論文数推移

文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、毎年8月に日本の科学技術活動を体系的に把握するための「科学技術指標」を公開しています。「研究開発費」や「研究開発のアウトプット」などの5つのカテゴリーに分類される約160の指標群でまとめられており、『科学技術指標2024』では「オープンアクセス(OA)論文の動向」という新たな指標が導入されました。

本記事では、『科学技術指標2024』の「研究開発のアウトプット」にフォーカスし、世界各国と比較した日本の論文数について主に解説します。

研究開発のアウトプットの状況(論文数)

科学技術指標の第4章「研究開発のアウトプット」では、論文の生産への貢献度を見る方法として、分数カウント法に基づく論文数が公開されているほか、注目度の高い論文について補正したTop10%補正およびTop1%補正論文が公開されています。なお、『科学技術指標2024』のデータは、2020~2022年にかけての論文数に基づき計算されたものです。

日本の論文数は世界第5位

分数カウント法に基づく日本の論文数(2020~2022年の平均)は、前年(70,775本)より微増して72,241本でした。これは中国、米国、インド、ドイツに次ぐ第5位であり、前年と同じ順位となっています。

Top10%補正論文数は世界第13位、Top1%補正論文数は世界第12位

該当年の年末時点における論文の被引用数に基づいて補正を加えた論文数を、Top10%補正論文数またはTop1%補正論文といいます。 日本のTop10%補正論文数(2020~2022年の平均)は、3,719本で第13位でした。さらに、Top1%補正論文(2020~2022年の平均)は311本で第12位でした。世界各国とのランキングを見ると、いずれも前年と同じ順位となっています。

分数カウント法の論文数もTop10%およびTop1%補正論文数も、日本の順位は前年から変わっていません。一方、世界各国の動向を見ると、トップを走る中国の活躍が目覚ましいほか、グローバルサウス諸国の存在感も増しています。

ただし、中国は自国・地域から論文を引用されていることが多く、論文の被引用数の割合(=論文の注目度)についても、その意味合いが変化していると考えられています。実際に、『科学技術指標2024』ではコラムのなかで、試験的に米国からの被引用数を基準としてTop10%補正論文数を集計しています。なお、この試験的な集計では日本は第13位から第9位に浮上します。補正論文数のランキングは、どの国・地域からの被引用数を基準とするかによって結果に差異が生じることに留意する必要があるのです。

オープンアクセス(OA)論文の動向

『科学技術指標2024』から新たに加わった指標が、「オープンアクセス(OA)論文の動向」です。2022年における自然科学系のOA論文数は、世界全体で118万件でした。OA化率は56.2%であり、世界的にも論文のOA化が進展しているといえます。主要7か国のOA論文数はいずれも加速度的な上昇傾向にありますが、2021~2022年にかけては中国を除いてやや減少しています。2022年の日本のOA論文数は53,212本で、中国、米国、英国、ドイツ、フランスに次ぐ第6位となっています。

なお、コラムではオープンサイエンスに関する認識について、日本の研究者と欧州の研究者の比較を紹介しています。OA出版経験がある研究者の割合は、日本は83%、欧州は92%といずれも高い傾向を示しました。その一方で、公開リポジトリにおけるデータ公開経験については大きな差が見られました。日本では特定分野リポジトリへの公開経験がある研究者は13%、学術機関リポジトリへの公開経験がある経験者が19%だったのに対し、欧州では70%が公開リポジトリへの公開経験があると回答しました。調査設計が異なるため厳密な比較ではないと前置きしながらも、リポジトリ公開経験の差が、欧州と日本のOA参画度合の差につながっている可能性が指摘されています。

そのほかの主要な指標は概ね横ばい

『科学技術指標2024』では、そのほかの主要な指標についても、日本の世界ランクは概ね前年と横ばいであり、大きな変化は見られませんでした。ただし、研究者数や研究開発費については日本の伸び率は緩やかであると指摘されており、来年以降の動向にも注目する必要があります。

参考文献

科学技術・学術政策研究所 — 科学技術指標2024

  • 英文校正
  • 英訳
  • 和訳
※価格は税抜き表記になります