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その他のスポーツにおけるデータ分析の活用事例

学術研究の各分野だけでなく、スポーツ界におけるデータ分析の活用は進んでいます。例えば、野球界ではセイバーメトリクスやトラッキングシステムなどの多様なデータ分析手法が導入されており、選手の評価や戦術立案などに役立てられています。野球界におけるデータ分析の活用事例については、こちらの記事をご覧ください。

野球以外にも、さまざまなスポーツにおいてデータ分析は活用されています。この記事では、サッカー、テニス、バスケットボールにおけるデータ分析の活用事例をご紹介します。

サッカーにおけるデータ分析

日本のサッカー界では、小学生の大会からJリーグの公式試合、国際試合に至るまで、出場した両チームの選手リストや得失点、シュート数などの試合の経過が公式記録として記録されています。特に、Jリーグではボールに触れた選手たちの動きについて記録したプレーデータと、ボールに触れていない選手も含めてピッチ上の選手全員の動きを記録したトラッキングデータを取得し、公表しています。これらのデータは、評価指標やデータサイエンス分野との連携に活用されています。 なかでも「ゴール期待値」というデータ指標は、得点を生み出すシュートの質について分析したものです。Expected GoalsあるいはxGと表記されることもあります。

Jリーグでは、試合結果やシュート数・パス数などあらゆるプレーデータをもとに導き出された「Football LAB」によって、それぞれのシュートがどれくらいの確率でゴールが決まるか=ゴール期待値が可視化されています。ゴールへの距離やシュートの角度、身体のどの部位(頭、足など)でシュートをしたか、直前のプレーの種類や相手選手の位置など、さまざまな情報が加味されます。シュートの成功確率は0~1の範囲で表され、値が高いほど、そのシュートが得点に結びつく可能性が高いといえます。

テニスにおけるデータ分析

テニス界では、2006年より審判補助システムHawk-eyeが導入されています。コートの周辺にはハイスピードカメラが10台設置されており、ボールの軌道の解析が行われています。この審判補助システムのおかげで線審の設置人数を最小限に抑えることができ、新型コロナウイルスの感染拡大防止対策としても活用されました。

他にも、ツアーレベルの大会では試合の統計データが公表されており、サービスのスピードがポイント取得率と高い関連性を示していることがわかっています。

さらに、ウィンブルドンではIBMが提供するエンタープライズ向けの生成AIプラットフォーム「IBM® watsonx™」を用い、テニスファン向けのサービス「Catch Me Up」を提供しています。選手のランキング、最近のパフォーマンス、ゲーム数、セット数などさまざまなデータを解析し、試合の勝敗を予測したり、お気に入りの選手についての情報を収集しやすくしたりと、ファン体験の向上に活用されています。

バスケットボールにおけるデータ分析

バスケットボールでは、選手のパフォーマンスを評価し年俸やスカウトの参考となる数値として、PERという指標が活用されています。ポイント数、シュート成功数、アシスト数などのポジティブな評価数値と、フリースローの失投数やターンオーバー数といったネガティブな評価数値など、複数の要素で計算されます。

また、バスケットボールの試合中は頻繁に選手交代があり、出場機会が少ない選手もいることから、ポイント数を出場時間で割って試合時間の40分をかけあわせたPTS40pという指数によって、40分間フルに出場した場合の得点効率を評価しています。フルで出場できない若手選手や控え選手の得点効率を算出できるため、選手の適正な評価につながるとされています。

また、アメリカの男子プロバスケットボールリーグでは、STATS 社が開発したSportVU1という位置追跡システムが導入されています。6台のカメラがコート上を毎秒25フレームで撮影しており、選手およびボールの位置情報を計測して戦略分析に活用されています。

スポーツアナリティクスの発展に期待

選手たちのプレー情報や得点に関する情報を数値化して分析したり、高性能カメラとAIを活用したりと、スポーツにおけるデータ分析は多岐にわたっています。これらのデータは、選手のパフォーマンスを引き上げることはもちろん、各試合の戦略立案や、選手の年俸・スカウトなどにも活用されています。科学技術分野におけるデータ分析の発展とともに、スポーツアナリティクスの分野も発展することが期待されています。

参考文献

サッカーデータの可視化の現在~国内外の取り組み事例から~ — 計算機統計学36(1) p33-44
FootballLAB — Jリーグのデータから作るゴール期待値
一流選手のテニスゲームのプレー分析のための達成度評価項目の開発 – 教育医学66(3) p162-177
ソニー株式会社|広報note — ウィンブルドンでも活躍!ホークアイが提供する、テニスのイン・アウト判定
IBM プレスリリース — IBM、生成AIを活用してウィンブルドンのパーソナライズされたファンエンゲージメントを促進
メトリクス法を用いたバスケットボール選手分析について ―選手マネジメントの一考察― 日本経大論集44 (1) p307-313
バスケットボールにおける選手・ボール位置情報の3次元可視化ツール The Journal of the Institute of Image Electronics Engineers of Japan 47(4)

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