ゲイツ財団のプレプリントプラットフォーム「VeriXiv」について
2024年8月、ゲイツ財団がF1000と連携して立ち上げたプレプリントプラットフォーム「VeriXiv」において論文の投稿が開始されました。2024年10月上旬時点で、すでに13件のプレプリントが公開されています。ゲイツ財団のプレプリント公開の義務付けと、VeriXivに概要について解説します。
ゲイツ財団のOAポリシー改訂
ビル・ゲイツ氏と当時の妻メリンダ氏が設立したゲイツ財団(Bill & Melinda Gates Foundation)は、世界中の人々の健康や生産的な生活のため、感染症対策や農業改革、教育システムへの支援などさまざまな事業に投資してきました。学術研究分野においても多額の投資を行っています。ゲイツ財団では2025年にOAポリシーを改訂し、同財団が助成した研究については、プレプリント公開を義務付けるとしています。
ゲイツ財団の概要と2025年からのOAポリシー改訂については、こちらの記事をご覧ください。
さらに、OAポリシー改訂が発表された翌月の2024年4月には、OA出版のためのプラットフォームを提供するF1000との連携により、プレプリントプラットフォーム「VeriXiv」を立ち上げる計画が発表されました。「VeriXiv」は2024年8月から投稿が開始され、実際にプレプリントが投稿されはじめています。
2025年1月以降に同財団から助成を受けた研究者は、このVeriXiv上に論文のプレプリントを共有することが義務付けられます。
VeriXivとは
VeriXiv に提出されたプレプリントは、F1000の編集チームによるチェックを受けた後、「査読待ち」のステータスでプレプリントとして公開されます。提携先であるF1000は、過去にもさまざまなOA出版プラットフォームの構築に携わってきました。そこで培われた出版前チェックの知識と経験を活かし、VeriXivに投稿される論文については研究の透明性、倫理、公正性についての検証が行われます。この厳格な出版前チェックに合格した論文は検証済みのプレプリント(verified preprint)と表現され、研究の品質と完全性が保証されることとなります。
倫理および整合性のチェック項目は、盗用や剽窃、画像操作、著者の検証、利益相反など20種類以上にも上り、オープンリサーチの透明性、データの適切なリポジトリでの利用可能性、再現性のある方法かなども含めて多面的にチェックされます。
プレプリント公開後の流れ
社内の編集チェックを受け、「査読待ち」のステータスで公開されたプレプリントは、著者の希望に基づき、順次査読へと進みます。査読者は、社内の編集チームが選定して招待するほか、著者自身が査読者基準に準拠する人物を推薦することもできます。
査読後に付与されるステータスには次の3つがあります。
・Approved(承認済み)……査読に合格した論文
・Approved with Reservations(留保付き承認)……学術的価値は認められたものの、いくつかの修正が必要な論文
・Not Approved(不承認)……査読者によって論文としての質が低いと評価されたもの
査読の結果にかかわらず、後から削除したり撤回したりすることはできません。論文を修正して再公開したことがわかるよう、論文のバージョンと公開日も明記されます。
なお、VeriXivでプレプリントが公開された後は、同財団のOA出版プラットフォームである「Gates Open Research」や他のジャーナルに投稿して査読を受けることができます。検証済みのプレプリント(verified preprint)として、VeriXiv上で公開し続けることも可能です。プレプリント公開後の論文の取り扱いについては、著者である研究者が決定することができます。
VeriXivでプレプリントを公開するメリット
VeriXivの公式ホームページには、VeriXivでプレプリントを公開するメリットとして、以下の3点が挙げられています。
研究の可視性を高める
研究成果をプレプリントとして無料で公開することで、出版される前から引用数が増えることが期待されます。
研究成果を証明する
研究成果を文書化し、十分に評価されるようにすることで、助成金の申請や研究者としての仕事を確保することに役立ちます。
幅広い研究コミュニティと協力する
あらかじめフィードバックを得ることで、正式な査読を受ける前に論文を改善することができます。進行中の研究について幅広い研究コミュニティに知らせることで、協力関係を築き、無駄を省くことにつながります。
プレプリント公開によりOA出版モデルはどう変わるか
プレプリント公開は、査読プロセスの長期化によって生じるさまざまな不利益の解決策のひとつといえます。ゲイツ財団がOAポリシーを改訂してプレプリント公開を義務付けたことで、他のジャーナルや研究機関においても、プレプリントの重要性はますます高まると考えられます。ただし、ゲイツ財団では同時に、APC(論文掲載料)を含むOA出版にかかる費用への支援を終了するとしています。プレプリントの重要性が高まることで、現在のOA出版モデルが変革していくかもしれません。
参考文献
Curren Awareness Portal — F1000、ビル&メリンダ・ゲイツ財団と連携してプレプリントプラットフォーム“VeriXiv”を立ち上げる計画を発表
F1000 — Gates Foundation Collaborates with F1000 to Launch Verified Preprint Platform