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ゲイツ財団のOAポリシー改訂とプレプリントの重要性

2024年3月末、ゲイツ財団は2025年1月よりOAポリシーを改訂すると発表しました。学術研究成果のOA化を推進するcOAlition Sも、このポリシー改訂を歓迎する旨を公表しており、注目が集まっています。ゲイツ財団の概要と、ゲイツ財団のOAポリシー改訂で触れられていたプレプリントの重要性について解説します。

ゲイツ財団とは

ゲイツ財団(Bill & Melinda Gates Foundation)は、Microsoftの創業者であるビル・ゲイツ氏が、Microsoftを退任した2000年に当時の妻であるメリンダ・ゲイツ氏とともに設立した世界最大規模の慈善基金団体です。ビル・ゲイツ氏といえば、フォーブス誌が毎年発表している世界長者番付で何度もトップになったことがありますが、その資産の多くをゲイツ財団に寄付しているといいます。「すべての人が健康的かつ生産的な生活を送れるように支援を行う」ことを使命として掲げるゲイツ財団が、これまでに投資してきた事業の一例をご紹介します。

・貧困を改善するための持続可能な農業技術への投資
・世界の小規模農家の半分を占める女性に対する農具や研修への投資
・マラリア撲滅に向けた、新しい治療法や予防策開発への投資
・マラリア研究への資金提供、マラリアワクチンの開発支援
・その他、ポリオなどの感染症対策やさまざまな病気との闘いへの投資
・数学教育の質を向上させるための投資
・少数の革新的な出版社やEdTech企業との提携による新たな教育製品の開発 など

ゲイツ夫妻は2021年に離婚した後も財団を協業運営してきましたが、2024年5月にメリンダ氏がゲイツ財団を辞任することを発表しました。メリンダ氏は今後、女性と家族の支援に関する慈善活動に重点を置くとしており、ビル・ゲイツ氏との合意によって125億ドルの資金が投じられます。離婚および辞任はゲイツ財団にとって決してマイナスの要素ではなく、メリンダ氏自身の活躍とパートナーシップの継続により、社会課題への投資はますます拡大していくことでしょう。

ゲイツ財団のOAポリシー改訂について

ゲイツ財団は、2015年よりOA(オープンアクセス)政策に力を入れてきました。2025年1月より、同財団が助成した研究成果には改定後の新たなOAポリシーが適用されることになります。主な改訂ポイントは以下の通りです。

プレプリント公開の義務付け

同財団が研究資金を助成した研究に対しては、CC BYライセンスによるプレプリント公開が義務付けられます。プレプリントとは査読前の論文をOAとして一般公開することで、研究成果を速やかに世界に普及できるだけでなく、共同研究の促進やOA出版の透明性向上にもつながります。

APCの廃止

APCとは、OA出版において論文を掲載する際に支払う論文掲載料(Article Processing Charge)のことです。高額なAPCは研究者や学術団体にとって大きな負担となっており、APCの負担の適正化やAPCへの支援も行われてきました。しかし、プレプリント公開の義務付けに伴い、ゲイツ財団は今後、APCを含むOA出版にかかる費用への支援を終了します。現在のOA出版モデルの不公平に対処し、APC支援に賄っていた資金の再投資が可能になるといいます。

OAシステムおよびOAインフラへの支援

ゲイツ財団は、幅広い読者が論文やデータを利用しやすくなるよう、OAシステムおよびOAインフラに対して積極的に支援していくことを掲げています。

プレプリントの重要性

ゲイツ財団のOAポリシー改訂にもみられるように、学術界におけるプレプリントの重要性は高まっています。プレプリントは「査読前論文」とも呼ばれるように、ジャーナルの査読を受ける前の状態で公開される論文原稿のことです。プレプリントを公開することで以下のような利点があります。

研究者の認知度向上や共同研究の促進につながる

プレプリントの公開によって、著者である研究者のコミュニティ内での認知度が向上します。研究者同士の交流や、共同研究の促進にもつながります。

研究プロセスの透明性と再現性が確保される

プレプリントを公開することで研究プロセスもすべて一般に公開されるため、研究の透明性と再現性が確保されます。論文の不正行為を防止し、質の高い論文を増やすことにもつながります。

即時アクセスが可能となり、研究成果を迅速に公開できる

一般的に、ジャーナルの査読プロセスは数週間程度かかり、出版されるまでには数か月かかることも少なくありません。質の高い論文を世に公開するためには査読は欠かせないプロセスではありますが、迅速に出版したい研究者にとっては、査読プロセスの長期化による機会損失は避けたいものです。 プレプリントは、完成した論文をすぐに世界に向けて共有でき、読者にとっても即時アクセスできるのが特徴です。研究成果の迅速な普及は、さまざまな分野において研究の発展を促進するカギとなります。

論文を投稿してからアクセプトされるまでの時間については、こちらの記事をご覧ください。

論文を投稿してからアクセプトされるまでに要する時間

プレプリントは今後もますます重要となる

APCの負担増大や査読プロセスの長期化はOA出版の課題であり、プレプリントの重要性は今後ますます高まっていくと考えられます。ゲイツ財団のOAポリシー改訂、そしてプレプリント公開の義務付けは、OA出版の流れを変える節目となるかもしれません。

参考文献

Bill & Melinda Gates Foundation — 2023 Gates Foundation Annual Letter (2023年度ゲイツ財団年次書簡)
Curren Awareness Portal — ビル&メリンダ・ゲイツ財団、2025年からオープンアクセス(OA)ポリシーを改訂
Bill & Melinda Gates foundation – Policy Refresh 2025 Overview

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