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研究方法の種類と適切な選び方

研究方法には、大きく分けて「質的研究」と「量的研究」の2種類があります。また、その両方を組み合わせた研究方法を「混合研究法(定性・定量融合法研究)」と呼びます。それぞれの研究方法の特徴と、適切な研究方法の選び方について解説します。

質的研究(定性的研究)とは

質的研究とは、数値では計測できないデータを使用して行う研究です。定性的研究ともいいます。言葉や概念、思考、アイデア、経験といった実体のないものに焦点を当て、ありのままの人々の行動や意図を追求するのに向いている研究方法です。主観的または帰納的アプローチにより、潜在的な理論や仮説の確認を行う際に用いられます。

社会学や人類学のほか、臨床心理学や看護学などにおいてよく用いられます。医療分野においては、患者により良い医療を提供するため、個々の心理状態や日常生活などを含めて調査する際に用いられています。

質的研究には、以下のようなアプローチがあります。

エスノグラフィー

……研究対象と同じ環境に入りこんで交流し、生活や行動を共にしながら、暮らしや習慣、伝統などを観察・記録するアプローチです。民俗学や文化人類学などで用いられます。

グラウンデッド・セオリー

……収集したデータの分類・コード化を通して、理論を導き出し発展させるアプローチです。社会学者であるAnselm L. Strauss氏とBarney G. Glaser氏が1960年代に提唱した社会調査の手法であり、看護学や社会福祉学などで用いられています。

現象学

……特定の現象をあらゆる角度から研究し、本質を解き明かそうとするアプローチです。過去の経験から得られた情報や知識を積み上げるほか、インタビューや体験の記述などを通して、数値化が難しい対象の内面を客観的にとらえます。

ケーススタディ(事例研究法)

……ひとつの事例に対して、過程や背景などの情報を詳細に調査・記述するアプローチです。特殊な症例に対してケーススタディを取り入れるなど、医学分野で活用されています。

質的研究では、個々の対象者にインタビューを行ったり、グループ・ディスカッションを行ったりします。個々の発言だけでなく、グループ間の討論や意見、対象者の反応なども分析します。現代はさまざまなデジタル技術の発達によって映像や音声を記録できるため、正確な質的データを収集しやすくなっており、質的研究の精度向上が期待されています。

量的研究(定量的研究)とは

量的研究とは、数値や統計データを用いた研究です。定量的研究ともいいます。演算的・客観的なアプローチであり、既存の学説や理論の実証、仮説の検証などに向いています。

質的研究がオープンクエスチョンで行われることが多い一方、量的研究は選択肢を提示するクローズドクエスチョンによってデータを収集し、統計的にデータを分析します。

量的研究には、以下のようなアプローチがあります。

質問紙調査

……紙に印刷した調査項目に回答してもらうアンケート調査です。対象者の属性や行動、考え方などを変数としてコーディングをし、定量データとして収集できます。対面や郵送のほか、電話やオンラインでも行われます。

無作為対象抽出(ランダム・サンプリング)

……母集団から調査対象を無作為に抽出して行う標本調査です。層化抽出やクラスター抽出、多段抽出など、母集団をあらかじめいくつかのグループに分けることで、母集団の特徴を反映しながら無作為に抽出できます。

構造化面接

……質的研究におけるインタビュー等とは異なり、あらかじめ設定された質問項目や評価基準に沿って面接を行います。どの対象者にも同一の質問を決まった順序で行うことで、標準化された回答を得られます。

統計分析

……上記の方法で得られた多量のデータを、定量統計学的手法で分析します。

混合研究法(定性・定量融合法)とは

質的研究と量的研究を組み合わせた研究方法を、混合研究法あるいは定性・定量融合法研究と呼びます。質的研究を通して得られた知見を検証するために量的研究を実施する、あるいは質的研究によって状況調査を行い、概念フレームワークを開発した後、量的研究によって検証するといった流れで行われます。

包括的なデータを豊富に収集できるほか、質的研究によって導き出された結果と量的研究によって導き出された結果の間に生じる矛盾を解明するのに役立ちます。社会科学や看護学、家庭医学、社会福祉・公衆衛生など多様な分野に有効なアプローチとされています。

適切な研究方法の選び方

具体的には、以下のような手順で研究方法を選択します。

1. 研究の目的や目標、リサーチクエスチョンの設定

研究の方法を検討する前に、「何について研究したいのか」つまり研究の目的や目標を明確にすることが大切です。研究上の疑問や課題のことをリサーチクエスチョンといいます。リサーチクエスチョンに対する回答を得るために、どのような変数を設定するのがよいかを検討します。

2. 先行研究や類似研究に用いられた研究方法の調査

次に、先行研究や類似研究において、どのような研究方法がよく使われているかを調べてみましょう。特に、自分の研究と同じ研究テーマで用いられているアプローチを確認することは大切です。先行研究ではその研究方法で目的が達成できているか、課題はなかったかなどを検討し、自分の研究において最適な研究方法を選択しましょう。

3. 研究計画の立案と見直し

先行研究や類似研究に用いられた方法を参照しながら、自分の研究の目的や目標を達成できるように研究計画を立案します。なお、実際の研究においては時間や予算などの現実的な制約が生じる可能性もあるため、実用性に基づいて立案するようにしましょう。

研究計画を立案できたら、手順ごとに必要なリソースやどれくらいの時間がかかるかなどを検討し、必要に応じて見直しましょう。実現可能なラインに基づき綿密に計画することで、研究がスムーズに進み、成功の確度も上がります。

研究の成功には入念な計画と最適な研究手法の選択が重要

研究を成功させるためにはしっかりと計画することはもちろん、最適な研究方法を選び、丁寧に実施することが重要です。研究方法が的確であれば、データを収集・分析しやすくなるだけでなく、正確に言語化して論文にまとめやすくなります。逆に、計画が完璧であっても、リサーチクエスチョンに対する回答を得るのに適していない研究方法で進めてしまうと、必要なデータが十分に集められません。研究方法の適切な選択が、論文の質の向上にもつながるといえます。

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