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論文を投稿してからアクセプトされるまでに要する時間

論文の数は年々増加しており、研究者が論文をジャーナルに投稿してからアクセプトされるまでに要する時間も長期化する傾向にあります。研究成果の迅速な出版を希望する研究者にとって、論文のアクセプトそして出版までにかかる時間の長期化は大きな問題となっています。特に時間がかかる査読プロセスの現状や、アクセプトまでの時間が長期化する理由について解説します。

論文の編集・出版にかかる時間

国際的な学術出版社であるエルゼビア社が提供している「Journal Finder」は、投稿先の候補となるジャーナルを見つけるのに役立つサービスです。自身の論文のアブストラクトやキーワードにマッチするジャーナルを検索でき、サイトスコアやインパクトファクターなどの指標を参考にすることができます。結果画面では、投稿された論文に編集部が最初の判定を出すまでにかかる平均時間と、アクセプトから出版までにかかる平均時間も表示されます。編集・出版プロセスにどれくらいの時間がかかるかは、投稿するジャーナルを選択する際のひとつの参考情報になります。

査読プロセスにかかる時間の目安を公開している出版社もあります。シュプリンガー・ネイチャー社は、目安として「査読プロセス全体で約3~6か月の期間を要する」としています。ただし、査読プロセスには予測不可能な側面も多く、論文の公開予定日を明確に設定することは難しく、その論文の専門性に適した査読者の空き状況や担当できる査読者がどれくらいの時間を査読に割くことができるかによって前後します。

また、国際的な医学ジャーナルのLancetでは、論文の迅速な出版のためにさまざまな取り組みをしています。著者に向けて発信されているインフォメーションのなかで、編集者は10営業日以内に完全なピアレビューを含む決定を行い、オンライン出版の場合は論文がアクセプトされてから10営業日以内に出版されるとしています。

査読プロセスに進む前にリジェクトされるケースもある

一方で、投稿された論文が査読を受けるべき品質に満たず、査読前に編集部の判断でリジェクトされるケースもあります。Annals of Internal Medicine(AIM:米国内科学会誌)のケースを例に挙げると、投稿された原著論文のうち約6割は査読前にリジェクトされており、約4割が査読プロセスへと進みます。最終的にアクセプトされるのは、投稿されたすべての論文のうち1割にも満たないといいます。

Janine Huisman氏とJeroen Smits氏が2017年に行った調査では、投稿された論文を査読プロセスに進める前に編集者の判断においてリジェクトしたケースを集計しています。その結果、調査対象3,500件のうち約3分の1のジャーナルでは2週間以上、約6分の1では4週間以上もかかっていることがわかりました。投稿から2~4週間もの間、編集者の手元でプロセスが滞っていることが浮き彫りとなった形です。

ジャーナル側には、査読に進むか否かの判断を迅速に行うことが求められています。また、査読にかかる時間とコストを無駄にしないためにも、研究者一人ひとりが質の高い論文を投稿することが重要といえます。

査読プロセスにかかる時間

学術出版のプロセスのなかでも、最も時間がかかる工程が「査読」です。

1本の論文を査読するのにかかる時間は3時間程度といわれていますが、当然、依頼を受諾してから約3時間で提出できるわけではありません。査読者の専門性や熟練度、そして論文の内容や品質によって所要時間は大きく変わりますし、査読者の直近のスケジュールが空いていなければ、すぐに査読に時間を割くことは難しいためです。一般的に、査読期限は2週間程度で設定されます。

そもそも、論文がアクセプトされるまでには査読者が論文を査読する工程だけでなく、編集者が査読候補者を選定し、査読依頼をするといった工程も含まれます。査読依頼にかかる日数も含めて、国内の査読の状況を調査した集計をご紹介します。

杏林舎の「国内の査読状況『査読依頼・日数』の集計結果」

学術雑誌や書籍の制作や編集事務支援を行う杏林舎では、「国内の査読状況『査読依頼・日数』の集計結果」を公開しています。これは、杏林舎が提供するオンライン投稿・査読システム「Scholar One Manuscripts(スカラーワンマニュスクリプト)」を利用している160のジャーナルに、2016年のうちに投稿された論文を調査・集計したものです。この集計結果では、査読者の選出からすべての査読が提出されるまでにかかる日数は平均で19.4日であることがわかりました。

・投稿された論文を編集者が受信し、査読者を選出して査読依頼を送るまでに平均1.8日
・辞退された場合の再選出も含め、最終的に査読者が確定するまでに平均3.4日
・一人の査読者が査読を提出するまでにかかる期間は、平均14.15日(和文誌では16.20日、英文誌では12.84日)
・各工程の平均値を合計した結果、査読者の選出が始まってからすべての査読が完了するまでに要する期間は平均で19.4日

ただし、査読候補者の辞退や返答なしによって再選出する回数が増えると、その分すべての査読が完了するのが遅れることになります。例えば、2名に査読を依頼した場合に2名とも受諾する割合は58.5%であり、約4割のケースでは3人目の査読候補者を再選出して依頼しなおす必要があります。受諾または辞退の返答をするのにかかった日数は平均1.85日で、辞退する場合のほうが受諾する場合よりも返答が遅くなる傾向にあることもわかっています。

査読の依頼を受けた研究者は、査読プロセスの短縮や編集者の負担軽減のためにも、依頼を受けたらできるだけ速やかに返答することが望まれます。

査読プロセスを長期化させないために著者ができること

できるだけ質の高い論文を投稿することは、受信後の最初の編集プロセスにかかる時間を短縮し、査読プロセスも短縮することにつながります。デスクリジェクトを回避するためにも、投稿規定をよく確認するほか、書式の不備や不十分な点がないように気を付けましょう。英語論文の場合は、基本的な文法やスペルミスがないよう英文校正を受けるのもおすすめです。

また、査読者の選定に時間がかかることも、査読プロセスが長期化する理由のひとつです。一人の査読者が一度に引き受けられる本数には限界があり、依頼が重複すれば査読開始時期が遅れます。ときには、査読を辞退せざるを得ないケースもあります。特に、専門性の高い分野や新しい研究分野ではそもそも査読ができる研究者が少なく、候補者の選出が難しくなる傾向にあります。

杏林舎の調査によると、2名の査読者を選定するまでに要した査読候補者の平均は2.8人であり、なかには査読者が決定するまで6名以上の候補者に依頼したケースもあったといいます。論文の投稿にあたって著者は査読者を推薦しますが、あらかじめ2~3名の査読候補者を推薦することは、査読プロセスをスムーズにするのに役立つでしょう。

査読候補者の推薦については、以下の記事も参考にしてください。

推薦査読者を選ぶ際のポイント

参考文献

Elsevier — Journal Finder Springer Nature — Springer Support — 論文が公開されるまでの所要時間
Lancet — Information for Authors
Janine Huisman & Jeroen Smits. Duration and quality of the peer review process: the author’s perspective.
株式会社杏林舎 — S1MNEWS — 国内の査読状況『査読依頼・日数』の集計結果

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