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不適切なオーサーシップを回避するためにすべきこと

研究に貢献した人物や論文の著作に関わった人物が適正に公表されない「不適切なオーサーシップ」は、捏造、改竄、盗用などの特定不正行為や二重投稿などとならび、研究における不正行為として広く認識されるようになってきました。不適切なオーサーシップの種類と、文部科学省によって公表されている事案の件数、不適切なオーサーシップを回避するためにすべきことについて解説します。

不適切なオーサーシップとは

オーサーシップとは、著者、共著者、実験やデータ分析を担当した人のことを指します。ICMJE(国際医学雑誌編集者委員会)はオーサーシップに関するガイドラインのなかで、論文の著者を決定する際の4つの基準を公開しています。

・研究の構想および企画、データの取得、分析、解釈において実質的に貢献していること
・重要な知的コンテンツに関して、記事の執筆や批判的レビューを行っていること
・論文の最終版の承認を行っていること
・研究活動および執筆活動におけるあらゆる部分の正確性および完全性について、説明責任を負うことに同意していること

4つの基準すべてを満たしてはいない人物は「著者」には当たらないため、著者と区別し、謝辞に「貢献者」として記載する必要があります。貢献者には、研究資金の調達者や、研究グループの管理および事務の支援者、その他執筆において何らかの支援を行った者などが該当します。

オーサーシップは、著者としての功績を示します。そのため、本来著者および共著者として記載されるべき人物が記載されないケースは、いわゆる「ゴーストオーサーシップ」と呼ばれます。

一方、オーサーシップは発表された論文に対する説明責任の所在を明確にするものでもあります。万が一、自らが共著者として名を連ねる論文において何らかの研究不正行為が明らかになったときには、共著者も著者としての責任が問われることになります。論文に関与・貢献していない人物を著者および共著者として記載するケースは「ギフトオーサーシップ」と呼ばれ、不適切とされています。特に、本人の承諾を得ず勝手に著者や共著者として記載することは、万が一にも研究不正行為があった場合に大きな問題へ発展しかねません。

このほかにも、査読や審査を有利に進めたいという目的のもと、当該研究領域の第一人者である著名な研究者を著者および共著者として招くことを「ゲストオーサーシップ(名誉著者)」といいます。その著名な研究者の当該研究に対する貢献度が低い場合は、正当な著者・共著者であるとはいえず、研究の正当な評価を歪めるおそれがあります。

不適切なオーサーシップに関する報告が含まれる事案の件数

文科省は、科学研究費等で行われた研究活動において何らかの不正行為が認定された事案をウェブサイト上で公開しています。『研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン』に基づき、捏造や改竄、盗用などの特定不正行為のほか、特定不正行為には分類されていない二重投稿や不適切なオーサーシップも公開の対象となっています。

2015年度から2023年度までに公開された特定不正行為は計104件でした。そのうち、不適切なオーサーシップに関する報告が含まれるものは計18件ありました。

年度 特定不正行為の件数 不適切なオーサーシップに関する報告が含まれる事案
平成27年度(2015年度) 9件 1件
平成28年度(2016年度) 9件 1件
平成29年度(2017年度) 16件 4件
平成30年度(2018年度) 8件 1件
令和元年度(2019年度) 10件 0件
令和2年度(2020年度) 11件 2件
令和3年度(2021年度) 14件 3件
令和4年度(2022年度) 15件 4件
令和5年度(2023年度) 12件 2件
合計 計104件 計18件

直近3年間に「不適切なオーサーシップ」と認定された事案では、主に以下の点が問題となっていました。

・本人の承諾を得ず、著者や共著者として論文に掲載した
・研究に関与・貢献していない人物を、著者や共著者として掲載した
・共著者の資格がある人物や実験を担当した研究者を、著者や共著者に加えなかった

不適切なオーサーシップを回避するために

不適切なオーサーシップが生じる原因はさまざまです。例えば、研究に実質的に関わっていないにもかかわらず、研究チームの上司や部署・学部のトップの人物の名前を共著者に加えることが慣例的に行われていたり、暗黙のルールとされていたりすることがあります。特に、日本やアジア圏における年長者や上司を敬う文化は、名誉のためのギフトオーサーシップにつながりやすいといえます。

不適切なギフトオーサーシップやゲストオーサーシップを回避するためには、投稿前に論文に対する貢献度をよく吟味することが大切です。研究の構想に携わった、あるいは最終的な承認に関わったなど、実質的な貢献度が認められる場合は共著者として記載します。ただし、共著者としての貢献が許容される範囲については、投稿する予定のジャーナルのガイドラインを参照するのがよいでしょう。投稿前に、ジャーナルの編集者に相談するのもおすすめです。

また、ゴーストオーサーシップが起こってしまうケースとしては、論文執筆中に著者および共著者にあたる研究者が亡くなってしまった場合や、ジャーナルの投稿にあたって登録できる著者数に制限がある場合、学会の会員規定に沿わない研究者(会員資格のない学部学生など)を不本意ながら除外した場合などが考えられます。悪質なケースでは、利益相反関係の指摘を避けるためにあえてデータ分析や執筆に関わった人物をクレジットから外したり、あるいは同僚とお互いの研究に共著者として名前を入れ合うことで業績を水増ししたりすることもあります。

もちろん、本来著者および共著者として記載されるべき人物を意図的に記載せず、ゴースト化させるのは論外です。著者・共著者として記載予定だった研究者が亡くなってしまったケースであれば、ジャーナルの規定に基づき死去した旨と日付を脚注に記載するなど、適切に表示すれば著者資格が認められる場合があります。著者・共著者として記載予定だった人物が投稿予定の学会誌の会員規定に沿わないことが後で判明した場合は、他のジャーナルへの投稿を検討しましょう。いずれにしろ、責任著者の独断で本来著者・共著者として記載されるべき人物の名前を勝手に除外してはいけません。

投稿にあたって各ジャーナルのガイドラインを参照することはもちろん、研究の計画・立案段階から、研究に関わるすべての人物についてそれぞれの著者資格を検討し、あらかじめ決定しておくことが望ましいといえます。

参考文献

Elsevier Researcher Academy — オーサーシップ ICMJE — Defining the Role of Authors and Contributors 文部科学省 — 文部科学省の予算の配分又は措置により行われる研究活動において不正行為が認定された事案(一覧)

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