二重投稿と二次投稿の違い
複数のジャーナルに、同じ内容の論文を同期間に投稿することを「二重投稿」といいます。文部科学省のガイドラインでも研究者倫理に反する行為であると規定されており、二重投稿を禁止しているジャーナルがほとんどです。その一方で、学会によっては許容される二次投稿の基準を規定している場合もあります。二重投稿が禁止されている理由と、二次投稿が許容されるケースについて解説します。
二重投稿は研究者倫理に反する行為
2014年、文部科学省が「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」を示しました。第1節の3「研究活動における不正行為」のなかで、二重投稿については「論文及び学術誌の原著性を損ない、論文の著作権の帰属に関する問題や研究実績の不当な水増しにもつながり得る研究者倫理に反する行為」と記述されています。このように、学術界では原則として、複数のジャーナルに対して同一内容の論文を同時に投稿してはならないとされており、多くの学会・協会や学術誌の投稿規定のなかでも、二重投稿は禁止されています。
文部科学省のガイドラインにも示されているように、二重投稿は論文やジャーナルの信頼性だけでなく、研究者自身の信頼性も損失してしまいます。
例えば、別のジャーナルですでに掲載された研究結果を二重投稿してしまうと、読者が論文の審査過程に対して疑問を抱く可能性もあります。ジャーナルの信頼性が損なわれるだけでなく、そのテーマにおいて複数の研究が行われているように誤認されかねません。また、ひとつの研究実績が複数のジャーナルに掲載されることで、研究者が自らの業績を不当に水増ししていることになり、学術界における信頼性はもちろん、ジャーナルの編集者からの信頼も損なわれることになります。
また、二重投稿は著作権上の問題にも発展します。論文の著作権は著者に帰属しますが、ジャーナルに投稿した論文がアクセプトされた時点で、基本的にはそのジャーナルに独占的な出版権を設定することになります。したがって、二重投稿した論文が複数のジャーナルにアクセプトされてしまった場合は、投稿先のジャーナル間で権利問題の解決が必要となってしまいます。
このように、二重投稿は研究者倫理に反する行為であるばかりか、論文の再審査や非公開処理などジャーナル側の事務的な負担が増える原因にもなります。編集者の負担軽減や論文審査工程の迅速化のためにも、二重投稿をしないことは重要です。
二次投稿が許容されるケースについて
前述のように、同一の論文を異なるジャーナルにそのまま投稿する「二重投稿」は認められていませんが、学会によっては許容される「二次投稿」の基準を規定していることもあります。
情報処理学会
情報処理学会では、同学会の主催・共催を問わず、全国大会や研究発表会、シンポジウム、国際会議等において発表された論文のうち、主催者が途中経過報告と認める論文については二重投稿に当たらないとしています。また、情報処理学会論文誌に掲載されたテクニカルノートを発展・充実させた論文についても同様に、二重投稿には当たらず投稿可能であるとしています。
一方、論文誌や国際会議にすでに投稿中である論文を情報処理学会会論文誌に投稿することや、逆に情報処理学会論文誌にすでに投稿中である論文を他の論文誌や国際会議に投稿することは、二重投稿とみなされます。他の言語に翻訳して投稿した場合も、内容が同一であれば二重投稿となります。
言語処理学会
言語処理学会では、ある学会において公表した研究成果を、査読期間を含む投稿期間に時間的重なりがなく別の学会に投稿することを「二次投稿」として許容しています。査読期間を含む投稿期間に時間的な重なりがある場合は、二重投稿とみなされ許容していません。もちろん、未発表の研究や、予稿および論文として執筆せずに発表した研究は二次投稿・二重投稿には当たりません。
さらに、言語処理学会はジャーナル「自然言語処理」への二次投稿について具体的なケースを紹介しています。査読付きジャーナルに投稿もしくは掲載された論文については、内容に50%以上の差分がある場合に投稿が可能です。言語処理学会の年次大会、他学会の研究会、卒業論文・修士論文・博士論文、国際会議等において、投稿する論文の全部または一部をすでに公表している場合については、著作権上の問題がない場合に限り、同一の内容を二次投稿することが許容されています。また、ジャーナル掲載後、自然言語処理に掲載された旨を明示するという条件のもとでプレプリントサーバに事前に投稿することも許容されています。
「自然言語処理」は採択された論文について、翻訳権・翻案権等(著作権法第27条)および二次的著作物の利用(同28条)を含む著作権の譲渡を求めています。言語処理学会は、当該著作物のライセンスをCC BY 4.0と定めており、内容の差分がない翻訳版および25%以上の差分がある拡張版の再投稿を許容しています。ただし、SA(継承)やNC(非営利)、ND(改変禁止)などの条項がある場合、再投稿はできません。
許容される範囲内で二次投稿をする場合も、すでに公表された論文を参考文献として明示する必要があります。また、適切な著作権表示をすること、拡張版・翻訳版・再投稿版などどのような形の二次投稿かを明示することも求められます。
プレプリントも活用できるがジャーナルによっては注意が必要
プレプリントへの公開は、多くのジャーナルにおいて二重投稿とはみなされません。したがって、最先端分野の研究など、できるだけ早く研究成果を世界に公表したい場合は、プレプリントを活用するのもよいでしょう。査読にかかる時間やジャーナルの審査期間もないため、論文を迅速に公表することができます。
ただし、ダブルブラインド方式で査読が行われるジャーナルに投稿したい場合は、プレプリントに公開することは控えましょう。論文が公開済みの状態だと、著者・査読者ともに相手が誰であるかがわかってしまい、ダブルブラインド方式での査読が成り立たなくなってしまうためです。
学会やジャーナルによって、二重投稿および許容される二次投稿の規定は異なります。意図せず二重投稿をしていまわないためにも、投稿規定を必ず確認するようにしましょう。
参考文献
文部科学省 — 研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン
一般社団法人情報処理学会 — 二重投稿・剽窃・盗用に関するよくある質問
自然言語処理 — 学会記事 許容される二次投稿