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ダイヤモンドOAの概要と「Action Plan for Diamond Open Access」について

高額な論文掲載料(APC)による研究機関や研究者の負担が増加するなか、APCによらない新しいOA出版方法として「ダイヤモンドOA」が注目されています。グリーンOA、ゴールドOAに続くOA出版の選択肢のひとつであるダイヤモンドOAの概要と、2022年3月に公開された行動計画「Action Plan for Diamond Open Access」について解説します。

ダイヤモンドOAとは

ダイヤモンドOAは、読者や論文の著者である研究者が費用を負担する必要がない出版方法です。その運営資金は、研究機関や公的助成機関、出版社、学会などの資金提供によって賄われています。

2020年6月から2021年2月にかけて行われたダイヤモンドOAの実態に関する調査の結果が、「OA Diamond Journals Study(OADJS)」として公開されました。ヨーロッパの研究機関や研究助成機関からなるScience Europeの支援とcOAlition Sの委託を受けて実施されたこの調査では、以下のようなことが明らかとなりました。

・世界におけるダイヤモンドOA誌の数は、2020年時点で推計17,000~29,000誌
・ダイヤモンドOAとして出版された論文の数は、OAではない論文を含むすべての論文のうち、推計8~9%を占める
・資金提供者としは、研究機関が最も多い。次いで、公的助成機関や出版社、学会などが多くなっている

ダイヤモンドOAにはいくつか課題もあり、特に運営にかかるコストなどの経済面で課題が指摘されています。今回のOADJSで調査対象となったダイヤモンドOA誌のうち、約60%がボランティア労働に依存しているように、多くのダイヤモンドOAはジャーナルの母体となる組織からの現物支給もしくはボランティア労働によって運営コストを補填しています。助成金や共同出資、寄付などによってコストを賄うケースもありますが、経営状態が赤字もしくは財政状態自体が不明というジャーナルも過半数を占めています。保存ポリシーを策定していないジャーナルや利用統計を提供していないジャーナルもあり、持続可能性や可視性にも課題があるのが現状です。

しかしながら、研究資金の少ない国・機関・分野の研究者やキャリアの若い研究者にとって高額なAPCは大きな負担であり、OA誌に論文を投稿すること自体が難しくなりつつあります。書誌多様性が損なわれないためにも、APCの負担軽減は喫緊の課題といえます。

2021年11月、ユネスコ総会にて採択された「オープンサイエンスに関する勧告」では、ダイヤモンドOAという語句は使われていませんが、APCを課さないOA出版への支援が推奨されています。また、ブダペスト・オープンアクセス運動が20周年を迎えた2022年には「BOAI20」という声明が発表され、ダイヤモンドOAやグリーンOAを優先的に支援することが推奨されています。

「Action Plan for Diamond Open Access(ダイヤモンド・オープンアクセスのための行動計画)」

OADJSを受けて、主要な研究資金提供組織(RFO)および研究実施組織(RPO)の協会であるScience Europeは2022年3月に、「Action Plan for Diamond Open Access」を発表しました。翌年8月には、国立大学図書館協会資料委員会オープンサイエンス小委員会がこれを「ダイヤモンド・オープンアクセスのための行動計画」として日本語訳し、公開しています。

この行動計画は、ダイヤモンドOAの支援を目的として、「効率性」「品質基準」「キャパシティビルディング」「持続可能性」という4つの要素に焦点を当てています。

効率性

孤立したジャーナルやプラットフォームに点在するダイヤモンドOAが共通のリソースを共有し、効率性や規模の経済性を高めること など

品質基準

資金調達とビジネスモデル、サービスの効率性と品質保証、編集管理と研究の完全性、法的所有権など、学術出版における7つの要素について品質基準を明確にし、ダイヤモンドOA全体の整合性を探ること など

キャパシティビルディング

ダイヤモンドOAに関わる編集者やサービス提供者に向けて、研修資料や品質基準、規定、ガイドラインなどを構築すること。また、研究者やさまざまな研究機関、学会や省庁など、ダイヤモンドOAに関わるすべてのステークホルダーに役割を認識させること など

持続可能性

各機関の資金提供や一時的な助成金、ボランティア労働などの現物分配によって運営コストが賄われている現状をふまえ、持続可能性を向上させるために法的整備や枠組みの構築、透明性の高い財務管理などを推進すること など

それぞれのOA出版方法の理解が重要

ダイヤモンドOAによってAPCの負担軽減という課題には解決の道筋が見えるかもしれませんが、OAが抱えるその他の問題をすべて解決できるわけではありません。実際、日本ではAPCを支援したり、出版社との交渉力を強化したりする取り組みが進められているほか、グリーンOA通じた即時OAを推進する動きが加速しています。今後も、それぞれのOA出版方法の意義や課題について議論し、理解を深めることが重要と考えられます。

参考文献

OA Diamond Journals Study. Part 1: Findings
科学技術・学術政策研究所 — STI Horizon 2023 Vol.9 No.2 — ダイヤモンドOA:APCによらないオープンアクセスの国際動向
Current Awareness Portal — cOAlition SとScience Europe、「ダイヤモンドオープンアクセス(OA)」モデルの現状分析に関する調査報告書と調査を受けた推奨事項を公表
国立大学図書館協会 — 「ダイヤモンド・オープンアクセスのための行動計画」日本語訳
Science Europe — Action Plan for Diamond Open Access

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