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科学技術・学術政策研究所が公開した「粗悪な学術誌・学術集会を拡げないために」の概要

2020年、InterAcademy Partnership(IAP)は粗悪な学術誌や学術集会に対するプロジェクトを立ち上げ、その研究成果を提言という形にまとめて発表しました。これを科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が和訳し、概要をまとめたものが、2023年6月13日に公開された「粗悪な学術誌・学術集会を拡げないために」です。この提言の具体的な内容についてご紹介します。

ハゲタカジャーナルやハゲタカ学会を定義づける新たなスペクトラムアプローチ

「Combatting Predatory Academic Journals and Conferences」は、粗悪な学術誌(いわゆるハゲタカジャーナル)や粗悪な学術集会(いわゆるハゲタカ学会)の増加を抑制し、対抗するための介入策を見出し、提言を行うことを目的とした報告書です。このワーキンググループでは、世界中の研究者たちを対象に独自の調査を行い、さまざまな地域や国において広範な文献調査を実施しました。

最近では、ハゲタカジャーナルの数は15,500誌を超えているとされています。ハゲタカジャーナルに関する研究は増加している一方で、ハゲタカ学会に関する文献はまだ少なく、その多くが事例研究にすぎません。正式な学術集会よりも粗悪な学術集会のほうが多く開催されている可能性も示されており、被害は世界的に広まっていると考えらます。

これを受けて、本報告書では、ハゲタカジャーナルやハゲタカ学会の定義についても見直されています。
例えば、ハゲタカジャーナルの場合、最もリスクが低い「質が担保されている」に当てはまる特徴として、厳密な査読や優れた編集委員会のほか、出版費用が明確に示されていることなどが挙げられています。一方、最もリスクが高い「詐欺的」な学術誌の特徴としては、査読がない(または査読が不適切)、編集委員会がない(または、あっても偽りである)、模倣された学術誌またはWebサイト、出版費用に関する情報が隠されていることなどが挙げられています。ハゲタカ学会についても同様に、最もリスクが低い「質が担保されている」から最もリスクが高い「詐欺的」な学会まで、典型的な特徴が複数挙げられています。
これまでの二項対立的な考え方に代わる定義として、スペクトラムなアプローチとして定義づけられているのが特徴です。

ハゲタカジャーナルやハゲタカ学会によって生じるリスク、および対抗するためのツールや介入策

このプロジェクトでは、世界中の研究者を対象に、ハゲタカジャーナルやハゲタカ学会に対する認識や理解に関する調査も行われました。その結果、112か国1,800人以上もの研究者のうち80%以上が、ハゲタカジャーナルやハゲタカ学会が「すでに深刻な問題になっている」または「問題になりつつある」と回答しています。ハゲタカジャーナルやハゲタカ学会が広がることによるリスクとして、研究活動の信頼性の低下や、誤った情報が広まることで公共政策に生じる悪影響、低所得国と高所得国の研究格差のさらなる拡大などが挙げられています。

ハゲタカジャーナルやハゲタカ学会の被害にあわないためにも、略奪的行為に対する認識不足の解消が急務であり、認知を広げるための運動や研修などを通してさまざまなキャリアの研究者を保護することが必要だとしています。

ハゲタカジャーナルやハゲタカ学会を報告したり、回避・防止したりするためのツールとして、Think.Check.SubmitThink.Check.AttendAuthorAidなどが紹介されています。また、ハゲタカジャーナルやハゲタカ学会への介入策としては、チェックリストなどの活用や研修・指導プログラムの実施、研究機関および国による政策または規制などが挙げられています。

8項目の「結論と提言」

この報告書では、「結論と提言」として以下の8項目を挙げています。各提言の見出しを引用します。

1.いわゆる粗悪な学術誌や学術集会について現在使用されている定義は不適切である。
2.略奪的な行為に対する認識や理解は一般的に不十分である。
3.略奪的な行為は、より巧妙さを増している。
4.粗悪な学術誌や学術集会は増加傾向にあり、研究や研究の公正さに対する社会的信用を損ない、研究資源の著しい損失を生み出す危険性がある。
5.粗悪な学術誌や学術集会は、研究文化のなかに根付いてしまう危険がある。
6.学術的な研究成果の収益化および商業化は、略奪的な行為を助長する要因となっている。
7.現代の研究評価制度が、略奪的な行為を助長する主要な要因の1つとなっている。
8.略奪的な行為は、査読システムの弱点を利用している。
(引用:「粗悪な学術誌・学術集会を拡げないために」科学技術・学術政策研究所)

本報告書が注意喚起を行っているのは、研究者だけではありません。論文の著者や指導教員、大学などの教育機関、国際組織、学術団体、研究助成機関や省庁、出版社、図書館、索引データベースの提供者などあらゆる人や組織を対象に提言が行われています。

さまざまな人や組織がハゲタカジャーナルおよびハゲタカ学会に対する意識を高く持ち、提言に沿った行動を起こすことが、これらの略奪的な行為への対抗手段となるでしょう。

参考文献

科学技術・学術政策研究所 — 粗悪な学術誌・学術集会を拡げないために
InterAcademy Partnership — Combatting Predatory Academic Journals and Conferences
科学技術・学術政策研究所 — 「粗悪な学術誌・学術集会を拡げないために」を公開しました(6/13)
国立国会図書館 カレントアウェアネス-R — 科学技術・学術政策研究所(NISTEP)、「粗悪な学術誌・学術集会を拡げないために」を公開:ハゲタカジャーナルやハゲタカ学会に関する提言の翻訳

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