科学技術・学術政策研究所(NISTEP)による「論文のオープンアクセスとプレプリントに関する実態調査2022:オープンサイエンスにおける日本の現状」の概要
科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は2022年7~8月にかけて、日本の研究者を対象として、論文やプレプリントに関する実態調査を行いました。1,671名の研究者に対してオンライン調査を行い、約7割にあたる1,173名の回答を得ました。そのうち、現在研究活動を行っている1,104名の回答を分析した結果を「論文のオープンアクセスとプレプリントに関する実態調査2022:オープンサイエンスにおける日本の現状」という報告書でまとめ、2023年4月に公開しています。その内容について解説します。
9割以上の研究者が、研究のために必要な論文を入手できている
直近半年間における論文の入手状況に関する質問に対しては、「必要な論文は、ほとんど入手できた」と回答した人が42.0%、「必要な論文は、ある程度入手できた」と回答した人が52.1%でした。あわせて9割以上の研究者が、研究や論文執筆に際して必要な論文をきちんと入手できていることが分かります。特に、計算機科学、数学分野、心理学分野においては、「ほとんど入手」と「ある程度入手」の合計が100%となっていました。
プレプリント入手経験のある研究者は2020年よりも15.2ポイント増加
プレプリント(査読前論文)を入手した経験がある研究者は67.3%で、2020年の調査(52.1%)から比べて15.2ポイント増えました。その入手先として最も多かったのは、掲載および購読が無料でできる世界最大のプレプリントサーバー「arXiv」で、プレプリントを入手したことがあると答えた研究者のうち、55.0%が利用していました。次いで多かったのは、2022年の調査から追加された研究者のためのSNS「ResearchGate」で、44.1%が利用していました。
論文のOA経験がある研究者が8割以上に
論文をオープンアクセス(OA)で公開した経験がある研究者は、2020年の80.1%から3.2ポイント増えて83.3%となりました。プレプリントの公開経験がある研究者も2020年の20.4%から9.1ポイント増え、29.5%となっています。論文・プレプリントともにOA経験のある研究者が増加傾向にあることが分かります。
なお、論文の公開経験があると答えた研究者の年齢層をみると、40 代が最も多く86.0%を占め、次いで30 代以下が84.1%、50 代が77.8%、60 代以上が75.0%となっています。
論文の公開方法と公開・未公開の理由について
論文の公開方法については、77.0%の研究者が「全ての掲載論文がOAである雑誌に投稿した」と回答しており、ゴールドOAとして公開する研究者が最も多いことが分かりました。次いで、追加の論文掲載料(APC)をジャーナルに支払ってOA化する、いわゆるハイブリッドOAを利用した研究者が42.9%いたことも分かりました。
論文を公開した理由の上位2項目は2020年の調査と同じで、「論文を投稿した雑誌がOAだから」が73.8%、「研究成果を広く認知してもらいたいから」が61.5%でした。また、今回の調査で新たに追加された選択肢である「引用される可能性が高まるから」は45.2%と、第3位に入っています。論文をOA化することで、自信の研究成果を広く知ってもらい、多くの研究者に引用されることを期待していることがうかがえます。
論文をまだ公開していない理由も2020年と同様の傾向にあり、「資金がないから」が最も多く54.7%で、次いで「投稿したい雑誌がOAではない」が35.3%という結果でした。その一方で、論文を未公開としているのは所属機関や助成機関にOA方針等や助成条件等のポリシーがないからと回答した人は、2020年よりも減少しています。多くの研究機関や助成機関において、OAを推奨する動きが広まってきたことの表れだと考えられます。
論文掲載料(APC)に対する資金援助やOA方針等のポリシー制定が今後も望まれる
論文をまだ公開していない理由が解消された場合に、論文をOA化する意思があると回答した研究者は66.7%いることも分かりました。つまり、論文を公開するための論文掲載料(APC)に対する資金援助や、研究機関および助成機関のポリシー制定などを推進することが、日本におけるOA化にとって重要であることがうかがえます。