OA出版にかかるコストは研究者にとって大きな負担。『Science』系列5誌APCに代わる新方針を2023年よりスタート
米国科学振興協会(AAAS)の最高経営責任者であるSudip Parikh氏は、論文掲載料(APC)を必要とする現在のOA出版モデルには構造的不公平があると言及しています。さらにParikh氏は、科学的コミュニケーションはオープンかつ透明性があることが重要であり、適切なOAモデルを見つけるために試行する必要があるとも述べています。
この記事では、オープンアクセス(OA)出版に必要なAPCの支払いなどのコストがいかに研究者の負担となっているかを解説し、米国科学振興協会(AAAS)が出版する『Science』系列5誌が2023年からスタートしようとしているOA出版の新方針について紹介します。
OA出版する際に支払うAPCの負担について
従来は、学術出版にかかる費用は読者が支払う購読費によってまかなわれてきましたが、現在の一般的なOA出版モデルでは、OAジャーナル誌に論文を掲載する際に論文の著者または所属する研究機関が支払う論文掲載料(APC)によってまかなわれています。『Cell』や『Nature』といった主なハイ・インパクトジャーナルにおいては、論文の最終版をOA化するための論文処理費用としてほとんどの著者がAPCを支払っています。
このAPCの負担が研究活動にどのような影響を与えているかついて、『Science』などを発行する米国科学振興協会(AAAS)がある調査を行いました。2022年3~9月にかけて米国の研究者を対象に行われたその調査では、89の機関から422の回答が得られました。
調査結果によると、回答した研究者の約62.9%が過去にAPCの支払いをしたことがありました。そのうち、APCを支払うための資金を得ることが「困難だった」と回答したのは32.9%、「非常に困難だった」と回答したのは19.4%と、合わせて半数以上もの研究者がAPCを支払うための資金獲得に苦労していたことがうかがえます。
また、回答者の69.4%が助成金を使用してAPCを支払っており、多くの研究機関において、所属する研究者がAPCを支払う際に支援するための資金が十分に用意できていないことも浮き彫りとなりました。機関の規模や性別など、研究者の属性によって不公平が生じている点も看過できません。
さらに77.7%の研究者は、APCを支払うために「研究に使用する材料や機器などの購入を控えた」と回答し、58.1%が「ワークショップや会議のための資金を使用した」と回答しています。研究者たちはAPCを支払うために、研究設備や専門能力開発のための資金を転用しているのです。
このように、APCは現在のOA出版において一般的なモデルであるものの、その支払いは研究者にとって負担が大きく、研究活動に影響をもたらしていることが分かります。
Science系列5誌に適用されるOA出版の新方針
そんな中、米国科学振興協会(AAAS)は『Science』の系列5誌に掲載する論文に対して、OA出版における新たな方針を発表しました。著者がAPCなどの費用を負担することなく、掲載直後に各自が選択する任意のリポジトリにおいてより広く無料公開することができるというものです。この新方針は、2023年1月より実施される予定です(なお、同協会が発行する完全OAジャーナル『Science Advances』に対しては、この方針は適用されません)。
その背景には、米国大統領府科学技術政策局(OSTP)が2022年8月に発表した政策指針も影響していると考えられます。2025年末までに連邦政府から助成を受けた研究成果については、公開され次第、エンバーゴや費用負担なしで一般市民が自由に読むことができるようにするという指針です。これにより、公開まで 1 年間の待機が許可されていた既存の規則が廃止されたことになります。
現在、Science系列のジャーナルに受理された論文は、所属する機関のリポジトリまたは個人の Web サイトにのみ掲載することが許可されており、PubMedなど他のリポジトリに論文を追加するためには出版から半年間待機する必要があります。著者が費用負担をする必要がなく、かつ掲載直後に論文を他の方法でも公開できるようになれば、研究者は自分の研究成果を広く世に知らしめることができます。
ただし、『Science』の紙の雑誌は購読者数が約13万人であり、この新方針が他の学術ジャーナルにおいてもうまくいくかは未知数だという意見があるのも事実です。この新方針が、APCにかわる新たなOA出版のモデルとなるかどうかは、慎重に見極めていく必要があります。
参考文献
AAAS Survey: Many Researchers Face Difficulties Paying Open Access Fees(AAAS, 2022/10/26)
Exploring the Hidden Impacts of Open Access Financing Mechanisms –AAAS SURVEY ON SCHOLARLY PUBLICATION EXPERIENCES & PERSPECTIVES
Science’s no-fee public-access policy will take effect in 2023(Nature, 2022/10/11)
米国科学振興協会(AAAS)、オープンアクセス(OA)出版の傾向・コストに関する調査結果を公開
Science誌の新しいパブリックアクセス方針:2023年から費用なしでオープンアクセス化が可能に(記事紹介)
米国大統領府科学技術政策局(OSTP)、連邦政府から助成を受けた研究の成果の即時公開を求める政策指針を発表