オープンアクセス(OA)出版の論文掲載料にまつわる最新の動向
近年、欧米の学術誌を中心に拡大し続けているオープンアクセス(OA)は、日本国内でも着実に普及しはじめています。しかしながら、自分が書いた論文をOA化することに迷いがある方や、論文掲載料(APC)を支払ってまでOA化すべきか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。ここでは、論文掲載料にまつわる最新の動向について解説します。
論文掲載料(APC)が不要のOAジャーナルもある
論文掲載料が必要となるジャーナルは一部であり、掲載料不要のOAジャーナルもあります。 オープンアクセス学術誌要覧(DOAJ:Directory of Open Access Journals)に登録されている17,302誌のジャーナルのうち、論文掲載料不要かつ何らかの査読プロセスがあるジャーナルは12,064誌と、全体の約70%もあることがわかります(2021年12月現在)。これらの論文掲載料を取らないOAジャーナルでは、広告やスポンサー、さまざまな助成金や寄付金などから資金を調達しています。
論文掲載料には割引や減免制度もある
一方、論文掲載料が課されるOAジャーナルの多くは、大手出版社が発行している影響力が高いジャーナルです。読者からの購読料金をもとに運営される購読型ジャーナルと異なり、著者から支払われた論文掲載料で運営されるという出版モデルです。研究分野によっても異なりますが、なかには数百~数千ドルもの掲載料が必要な場合もあり、研究者にとって大きな負担となっています。
研究者の負担を軽減するために、会員に対する割引および免除の制度も設けられています。また、所属する学会や研究機関が掲載にかかる費用を負担する場合もあります。資金的な余裕や国からの補助などがない発展途上国の研究者などに対しては、論文掲載料を減免している出版社もあります。
論文掲載料に関するNature誌の方針
Springer Nature社は2021年1月より、Nature誌と関連する32誌に対するOA出版オプションを開始しました。著者は9,500ユーロ(約120万円)の論文掲載料を支払うことで、これらの雑誌にOA論文として掲載できるようになります。ただし、この金額に対しては「あまりにも高額すぎる」といった指摘も多く、特に低所得国の研究者にとっては難しい選択肢だと考えられています。
こうした論文掲載料について研究者の負担を減らすべく、Springer Nature社では提案型オープンアクセス(Guided Open Access)という新たな仕組みの試験運用も始めました。たとえば、著者がNatureのあるジャーナル1誌に投稿すると、関連する下位のジャーナル2誌についても同時に検討が始まります。基本的な品質チェックを通過し、ステータスがeditorial assessmentになった時点で、著者が出版社に対して分割論文掲載料(編集評価料としての2,190ユーロ)を支払います。
その後、候補に挙がった3つのジャーナルのいずれに適しているかを編集者が判断し、査読プロセスへと進みます。論文がアクセプトされ、著者が公開することを選択した時点で残りの分割論文掲載料(補填論文掲載料、掲載誌によって異なる)を支払うことになります。
この提案型オープンアクセスの利点は、初回に支払う編集評価料だけで3つのジャーナルについて検討できるため、複数のオファーに対して論文掲載にかかるコストを分散できる点です。著者にとっては編集者の評価や査読から有効なフィードバックを得ることができ、ジャーナルにとっては論文の質の向上や査読プロセスの短縮にもつながります。
OA出版は読者にも著者・研究者にもメリットがある
誰もが無料でアクセスできるOAジャーナルは、購読型ジャーナルよりも幅広い読者層に読んでもらえる可能性が高まります。特にゴールドOAと呼ばれる形式で掲載された論文は影響力が高く、被引用数およびダウンロード数が多いという報告もあります。購読型ジャーナルと同様に厳しい査読のプロセスがあり、OA化した論文の著作権は著者およびその所属機関が保持できることからも、OA出版のデメリットはほとんどないと考えられます。読者はもちろん、著者や研究者にもメリットがある出版モデルといえます。
参考文献
DOAJ Directory of Open Access Journals — Journals
The Scientist — For a Hefty Fee, Nature Journals Offer Open-Access Publishing
Nature Japan — 提案型オープンアクセス(OA)