ハゲタカジャーナルに対する大学の対応状況(文部科学省より)
2021年10月26日に開催された文科省科学技術・学術審議会の第21回情報委員会において、オープンアクセス(OA)ジャーナルの普及に伴うさまざまな課題が検討されました。その一つとして挙げられたのが、ハゲタカジャーナル(研究費の搾取を目的とした粗悪な学術誌)に関する課題です。文部科学省の発表資料をもとに、ハゲタカジャーナルに対して大学がどのような対応を行っているか解説します。
何らかの対応をしている大学は全体の約3割
ハゲタカジャーナルとは、論文掲載料を取ることを目的として、正当な査読プロセスを踏まずに論文を掲載する悪質なジャーナルのことです。きちんとした査読プロセスがあるかのようなふりをしたり、既存のジャーナルのWebサイトを騙って論文掲載を打診してきたりと、その手口は年々巧妙になっています。粗悪な学術誌であるとわかっていながら論文掲載数を稼ぐために投稿してしまう研究者も少なからずいて、大きな問題となっています。
ハゲタカジャーナルには論文を投稿しない、関わらないことが最善ですが、論文掲載の実績を得たいと望む研究者の弱みに付け込んでくるのがおそろしいところです。研究者が自衛するだけでなく、大学などの研究コミュニティにおいても対応が必要と考えられています。
文部科学省では、いわゆるハゲタカジャーナルの問題を「学術情報流通に係る懸念すべき事例」とし、大学がどのような対応を行っているか状況を把握するため調査を行いました。国公私立あわせて800大学に対して2021年5~6月にかけてアンケート調査を実施し、73%にあたる582校から回答を得ています。
回答のあった大学のうち、「学術情報流通に係る懸念すべき事例」に対して何らかの対応を行っていると回答したのは、国公私立大学全体で36%に留まっています。なお、国立大学では81%が対応を行っているのに対し、公立大学では37%、私立大学では27%と、対応意識にも差があることが浮き彫りとなりました。現状では、ハゲタカジャーナルへの対策は研究者個人に委ねられるケースも少なくないといえます。
具体的な取り組み内容
「学術情報流通に係る懸念すべき事例」に対して、大学が行っている具体的な取り組みをご紹介します。
まず、具体的な取り組み内容としては「注意喚起を行っている」と回答した大学が最も多く、次いで「パンフレット・Webサイトなどを作っている」「論文投稿説明会で説明している」と回答した大学が多くありました。
Webサイトを使った対応事例としては、ハゲタカジャーナルについて注意喚起する内容のWebページを、大学ホームページ内や大学図書館のホームページ内に公開しているという回答がありました。その他にも事例や関連情報を共有したり、論文の投稿先を検討する際に役立つチェックリストを公開したりと、研究者に有用な情報をまとめているケースもありました。
Webサイト以外のツールを使った広報・周知の事例としては、教職員および学生向けに配布するチラシ、リーフレット、ハンドブックなどに情報を掲載している大学がみられました。学内メールで事例や情報を共有したり、図書館広報誌で学内外に向けて発信したりとさまざまなツールやメディアを使って情報発信していることがわかります。
説明会や講習会、セミナーやワークショップを開催している大学もあります。ハゲタカジャーナルに特化したテーマというより、オープンアクセス(OA)の現状や課題、最新情報に関する説明会や、出版倫理および研究倫理などコンプライアンス関連の説明会などの一環として触れられているケースが多いようです。
その他にも、意識調査を行う、授業の一環として粗悪なジャーナルの存在やその問題点を説明する、有識者を招いて講演会を開催するといった対応をしている大学もありました。また、教員や学生から担当部署へ問い合わせがあった場合は、外部のWebサイトやデータベース、刊行物などを活用しながら情報を提供したり、同分野の他の研究員と相談したりといった対応がとられています。注意喚起の情報提供があった際に全学メールで周知をはかるなど、スピーディかつ積極的な情報共有に務めている大学もありました。
ハゲタカジャーナルの脅威について知ることが第一歩
文部科学省が発表した資料の末尾には、学術情報流通に係る懸念すべき事例の情報として、正規のジャーナルに似せたWebサイトや偽サイトが発覚するケースについても報告されていました。また、ハゲタカジャーナルだという認識がないまま論文を投稿してしまった研究者が、撤回を求めたが返信がなく、撤回にも応じてくれなかったという事例も共有されています。
信頼できるリストを参考にしながら論文の投稿先を選ぶなど、研究者自身が自衛することはもちろん重要です。加えて、大学や研究コミュニティが情報や事例を共有し、研究者の相談窓口となることも強く求められています。