完成版の発売から1年が経過したScopus AIの機能や活用シーンの紹介
エルゼビア社が提供するScopus AIは、2023年8月にα版がリリースされ、2024年1月に正式版が公開されました。Scopusには専門家たちによる独立した委員会によってレビューされた27,800誌以上の査読付きジャーナルおよび330,000冊以上の書籍のコンテンツがあり、Scopus AIはそれらのコンテンツを大規模言語モデル(LLM)を用いて効率よく検索することができます。発売から1年が経過したScopus AIについて、便利な機能や活用シーンを解説します。
Scopus AIの機能
Scopus AIは、信頼性の高い論文や文献を検索するためのさまざまな機能があります。基本的な機能については、α版がリリースされた際の紹介記事(エルゼビア社がScopusに生成AI機能を追加した「Scopus AI」のα版をリリース)でも解説していますので、あわせてご覧ください。
信頼性の高いサマリー(要約)の生成
Scopus AIは、ハルシネーションを軽減するRAG Fusionテクノロジー(特許出願中)を利用しています。入力したクエリに関連する文書を検索し、トピックサマリーと拡張サマリーを生成します。信頼できる生成結果であることを示すために、サマリーの生成にどの情報源を使用したか常に参照できるようになっており、その研究分野の概要を把握するのにかかる時間の節約にも役立ちます。
より深く掘り下げる質問の提案
Scopus AIは、検索したトピックスについて「より深く掘り下げる」ための質問を提案する機能もあります。その研究分野についての理解を深め、多角的に掘り下げていくような「ディスカバリー」に向いているといえます。
影響力のある基礎論文のリスト
Scopus AIは、大元であるScopusのデータベース全体をマイニングして、基礎論文のリストを作成します。要約の生成に使用される論文のなかでも特に頻繁に引用される、影響力の高い論文にアクセスしやすくなり、その研究分野の基礎から理解して知見を深めるのに役立ちます。
コンセプトマップ
完成版のScopus AIには、α版のリリース時には近日追加予定となっていたコンセプトマップ機能も追加されました。抄録のキーワードを示す複数の点を関連する他のキーワードと線でつないだコンセプトマップが生成されます。他の研究分野との関連性を把握するのに役立ち、学際的研究や分野を横断した共同研究などの入口となりえます。
トピックエキスパート機能
Scopusに掲載されている著者プロフィールを利用し、入力したクエリに関連する分野の第一人者といえる研究者を見つけだしてサマリーを生成します。なお、その研究者が選ばれた根拠も説明されており、透明性が確保されているといえます。トピックエキスパートの情報を起点としてその分野についての知見を広げたり、共同研究の候補者に挙げたりと、さまざまな活用方法が期待されています。
Scopus AIの活用シーン
Scopus AIには、Scopusや他の生成AIツールにはないさまざまなメリットがあります。
例えば、Scopus AIは大規模言語モデルを活用しているため自然な会話文のような形で質問することができ、専門用語や基礎知識がない研究分野についての情報収集も容易となります。異なる複数の学問分野を横断的に連携して行われる学際的研究や文理融合型の研究において、自分の専門分野以外の論文や文献を集める場合などにも役立ちます。
異なる分野の論文は、キーワードを指定して検索するのはもちろん、抄録を読み理解するのにも時間がかかります。Scopus AIは関連する文献の要約を生成し、主要な論文や研究者についての情報にもアプローチできるので、情報探索の効率化が実現します。多様な分野の研究者たちがお互いの研究の概要を把握し、社会的インパクトの大きい共同研究をスタートするのは容易なことではありませんが、Scopus AIはそのハードルを下げてくれることでしょう。
信頼性の高い生成AIであってもリスクを理解し正しく活用することが大事
他の生成AIと比べてScopus AIは信頼性が高く、ハルシネーションやバイアス、プライバシーや著作権の侵害などのリスクは低いと考えられています。特に、ハルシネーションについては情報源を確認できるようにすることで透明性を高め、リスクを最小限に抑えていますが、それでも懸念事項を完全にクリアできるわけではありません。使用者自身がこれらのリスクについて理解したうえで、正しく活用することが求められます。
参考文献
Elsevier — Scopus AI
情報の科学と技術 74巻 — 生成AIツールを使いこなすスキルが研究の効率性や成果に与える影響