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日本人による18年連続のイグ・ノーベル賞受賞について解説

ノーベル賞の発表に先駆けて、2024年9月12日にはイグ・ノーベル賞が発表されました。今年は大阪大学栄誉教授である武部貴則氏らの研究チームがイグ・ノーベル生理学賞を受賞し、日本人のイグ・ノーベル賞受賞は18年連続となりました。イグ・ノーベル賞の概要と、直近の日本人受賞者について解説します。

イグ・ノーベル賞の日本人受賞者

イグ・ノーベル賞は、アメリカのユーモア系科学雑誌「Annals of Improbable Research」誌によって1991年に創設されました。ノーベル賞のパロディであり、「人を笑わせ、しかも考えさせる」研究かつ「真似できない(または真似するべきでない)」業績であることが選考基準とされています。

特に、創設初期はユーモアや皮肉・風刺が重要視されていました。例えば、1991年には「水爆の父」として知られるエドワード・テラー氏に、皮肉をこめてイグ・ノーベル平和賞が与えられたほか、創作された架空の業績にも賞が授与されていました。

その一方で、近年のイグ・ノーベル賞は学術的な実験や手法に基づいて進められた研究に授与されており、実際に商品として実用化し世の中の役に立っている例もあります。例えば、2013年には日本のハウス食品が「タマネギが人を泣かせる生化学的プロセス」でイグ・ノーベル化学賞を受賞し、その後「涙の出ないタマネギ」が実際に開発されました。

このように、かつてはユーモアや皮肉・風刺に重きを置いていたイグ・ノーベル賞でしたが、近年の傾向としては学術性が高まっているといえます。学術的な価値や科学的にユニークな視点であることなども評価されており、自由な発想に基づく多様な研究を促進しているといえるかもしれません。

イグ・ノーベル賞の日本人受賞者

2024年は、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)がノーベル平和賞を受賞しましたが、生理学・医学賞、物理学賞、化学賞の科学技術分野において日本人研究者の受賞はありませんでした。直近3年間に日本人のノーベル賞受賞者がいないことは、日本の基礎科学力が低下していることの表れではないかと懸念されています。

参考記事:ノーベル賞の日本人受賞者の減少と論文の被引用数(Top10%補正論文数、Top1%補正論文数)の低下について

その一方で、イグ・ノーベル賞は18年連続で日本人が受賞しています。直近3年間における日本人の受賞歴は以下の通りです。

2022年 イグ・ノーベル工学賞

千葉工業大学教授 松崎元氏
「ノブを回すときの指の最も効率的な使い方を発見しようとした功績」
参考文献:「円柱形つまみの回転操作における指の使用状況について」

2023年 イグ・ノーベル栄養学賞

東京大学特任准教授 中村裕美氏
明治大学総合数理学部教授 宮下芳明教氏
「通電した箸やストローが食べ物の味をどのように変えるかを実験で評価」
参考文献:「Augmented gustation using electricity(第2回拡張人間国際会議の議事録)」

2024年 イグ・ノーベル生理学賞

大阪大学栄誉教授および東京医科歯科大学統合研究機構教授 武部貴則氏らの研究チーム
「多くの哺乳類は肛門を通して呼吸することができることを発見」
参考文献:「Mammalian enteral ventilation ameliorates respiratory failure」

イグ・ノーベル賞はユニークな発想や研究の多様性への評価

2024年にイグ・ノーベル生理学賞を受賞した武部貴則氏らの研究は、COVID-19の流行により人工呼吸器や人工肺などの機器が不足したことに端を発し、ドジョウなどの腸管呼吸を行う生物に着想を得て研究がすすめられ、ヒトに近いブタにおいて経腸換気アプローチが有効であることを示しました。人工呼吸器を装着できない患者や呼吸不全の患者などに対する新たな治療法の開発に向けて、臨床試験も進められているとのことです。

このように、近年、イグ・ノーベル賞を受賞している研究の多くが、学術雑誌に論文が掲載されていたり、商品として実用化が進められていたりと、実用性や学術的な価値が評価されています。18年連続で日本人がイグ・ノーベル賞を受賞していることは、ユニークで風変わりな発想も受け入れ、伸ばそうとする学術界の多様性が実を結んだ結果といえるかもしれません。

参考文献

広島大学 高等教育研究開発センター 大学論集 第50集(2017年度)p145-159「イグ・ノーベル賞の分析と考察」
ハウス食品株式会社 — タマネギ研究での イグノーベル賞受賞について

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