Nature Index 2023に見る日本の科学研究の動向
Nature Indexは、Springer Nature社によって毎年公開されている特別冊子です。2014年に初公開されて以来、世界各国の科学研究の動向を指し示す指標として活用されています。この記事では、2023年3月に公開された「Nature Index 2023」に見る日本の科学研究の動向について解説します。
日本の研究力低迷は続くも、生命科学分野ではAdjusted Shareが上昇
この10年、日本は科学研究の分野で欧米諸国に遅れを取っており、2015年以降は発表論文数が低下し続けています。Nature Index 2018では、日本のWFC(Weighted Fractional Count)が著しく減少し、特に2016年から2017年にかけて日本の競争力が低下していることが示されていました。
また、日本の研究力低迷は、Nature Indexの重要な指標であるAdjusted Shareにも表れています。Adjusted Shareとは、Nature Indexに掲載される論文の総数の年間変動を考慮して調整された指標です。日本のAdjusted Share は、2021年に3,185にまで減少しました。アジア太平洋地域で発表された論文数に占める日本の割合は、2015年には21.4%でしたが、中国などの台頭により、2021年には日本のシェアは12.6%にまで減少しています。日本の研究力低迷が続いていることがうかがえます。
しかし、最新のNature Index 2023によると、日本におけるSTEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)分野の研究において発表論文数が回復の兆しを見せていることが分かりました。10年という長い期間で見ると低下しているものの、2020年の日本のAdjusted Shareは2019年より4.1%上昇しています。特に、生命科学分野のAdjusted Shareは10.5%も上昇していることから、他の分野と比べても生命科学分野の発表論文数は回復の兆しが見られると考えられます。
AI・ロボット工学分野のシェアは低く世界トップ30にランクインもなし
国全体としてのNature Indexのランキングでは日本は世界第5位にランクインしているものの、AI・ロボット工学分野においては第7位と後退しています。日本は何十年もの間、最先端のロボット技術を開発してきましたが、AI・ロボット工学の分野で世界トップ30に入る研究機関はなく、諸外国と比べて後れを取っていると言わざるを得ません。特に、この分野における東アジア諸国の成長は目覚ましいといえます。2015〜2021年におけるAI・ロボット工学のShare増加率を見ると、日本は397%にとどまっていますが、韓国では1,138%と著しく増加していることが分かります。この背景として、AI分野が急成長するなかでの日本の業績不振を反映している可能性も考えられています。
日本の科学研究を好転させるためには若手研究者への投資の継続が重要
Nature Index 2023では、日本の科学分野のトピックスとして、研究領域から創設されたスピンオフ企業の成功例についても触れています。特に注目すべき研究者として、5人の若手研究者にフォーカスした記事も公開しています。Nature Indexを創設したDavid Swinbanks氏は、日本政府がこういった若手研究者に対して、それぞれのニーズに合わせた個別支援を行ってきたことが成果を上げているとして評価しています。これらの支援が継続されることで、日本の今後の科学研究が好転することにつながるといえます。
参考文献
Springer Nature — 【プレスリリース】日本の発表論文数に回復の兆しが見られることが、最新のNature Indexから明らかに
Springer Nature group — All Press Releases — Index reveals encouraging signs of recovery in Japan’s research output
NATURE INDEX — How Japanese science is trying to reassert its research strength
NATURE INDEX — Japanese robotics lags as AI captures global attention