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プレダトリージャーナル(ハゲタカジャーナル)判定リスト「Predatory Reports」に関する実態調査について

論文の著者から論文掲載料を得ることだけを目的として発行される悪質なジャーナルのことを、プレダトリージャーナル(ハゲタカジャーナル、悪徳雑誌、粗悪学術誌など)と呼びます。プレダトリージャーナルはOAジャーナルの普及とともに増加しており、近年問題となっています。この記事では、文部科学省科学技術・学術政策研究所が2023年3月に行ったプレダトリージャーナルの判定リストに関する実態調査について解説します。

約1万7千誌を収載するPredatory Reportsをもとに行われた実態調査

この実態調査は、アメリカのCabell Publishing社が提供している「Predatory Reports」を対象に行われました。プレダトリージャーナルを集めた商用データベースとしては2022年12月時点で唯一のリストであり、約1万7千誌が収載されています。出版社名、分野、発行開始年といった基本的な情報に加えて違反項目(Violation)が記載されており、プレダトリージャーナルだと判定された理由についても確認できるようになっています。

Predatory Reportsに収載されている約1万7千誌のうち、OAジャーナルが16,475誌と約98%を占めています。研究分野としては、医学分野が最も多く約37%を占め、次いで生物科学分野が約22%、工学分野が約13%となっています。その他にも人文科学やコンピュータサイエンス、化学、経済学、数学など全部で97種類もの分野があり、あらゆる分野においてプレダトリージャーナルの疑いがあるものが分布していることが分かります。

いつプレダトリージャーナルだと判定されたかは、Review Date という項目で確認できます。このデータベースの提供が開始された2017年が最も多いものの、この数年でも年間1,000誌を超えるジャーナルが追加で収載されています。プレダトリージャーナルは年々増え続けており、研究者は論文を投稿する際により一層注意する必要があるといえます。

違反項目(Violation)について

具体的にどのような点が違反項目とみなされ、プレダトリージャーナルと判定されているのかを見ていきましょう。判定における違反項目(Violation)にはそれぞれスコアがあり、合計スコアが100を越えたジャーナルが、プレダトリージャーナルと判定されてPredatory Reportsに収載されます。

1件の違反項目でプレダトリージャーナルだと判定されたもののうち、判定基準の違いを考慮せずに判定理由を調査した内訳によると、「No policies for digital preservation.(デジタル保存のためのポリシーがない)」という項目の違反が最も多く、14,315誌(72.2%)ものジャーナルが該当していました。
次に多かったのは「No articles are published or the archives are missing issues and/or articles.(論文が掲載されていない、またはアーカイブに号や論文がない)」で、10,252誌(51.7%)が該当しています。プレダトリージャーナルと判定されたものの約半数近くは、そもそもジャーナルとしての体裁が保たれていないということが分かります。
その次に多かった違反項目は、「The journal’s website does not have a clearly stated peer review policy.(雑誌のウェブサイトに査読方針が明記されていない)」で、8,902誌(44.9%)が該当しています。プレダトリージャーナルでは、きちんと査読が行われていないことがうかがえます。

これらの違反項目からは、論文を投稿する前にジャーナルのウェブサイトを見て判断することの重要性が分かります。ウェブサイトにデジタル保存のポリシーが掲載されているか、論文がきちんと掲載されアーカイブとして整理されているか、査読方針が明記されているかなどをしっかりと確認することが大切です。

プレダトリージャーナルかどうかを判定するには複数のデータベースの活用がおすすめ

Predatory Reportsのデータについては、判定における違反項目として報告されているものの存在しない項目や、ひとつのジャーナルに同じ判定理由が複数回にわたって記載されているケースなどもあり、結果にバラつきがある点には留意する必要があります。裏を返せば、プレダトリージャーナルの判定はデータベースを提供する企業にとっても非常に難しいということです。

この実態調査の対象となったPredatory Reportsには、判定基準の一貫性や評価の透明性などについていくつか課題はあるものの、プレダトリージャーナルを集めた商用データベースは他になく、ここに収載されたジャーナルへの投稿はできる限り避けたほうがよいといえます。

その他にも、信頼性のあるジャーナルかどうかを判断するためのチェックリストや、厳正な基準をクリアしたOAジャーナルのみが集められたデータベースなども活用しながら、研究者は複数の方法で論文の投稿先を自ら精査し、慎重に判断するようにしましょう。

参考文献

井出和希,林和弘,小柴等,“プレダトリージャーナル判定リストの実態調査”,NISTEP RESEARCH MATERIAL,No.326,文部科学省科学技術・学術政策研究所
DOI: https://doi.org/10.15108/rm326

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