エルゼビア社が掲載料引き下げを拒否したことに対し、学術委員全員が辞任
世界的な学術出版社であるエルゼビア社は、医学分野では『Lancet』、生物学分野では『Cell』など、高いインパクトファクターをもつ学術雑誌を多数刊行しています。しかしながら、エルゼビア社のジャーナルの高額な掲載料に対して研究者たちの間では反発が広がっています。
エルゼビア社の掲載料と利益率について
エルゼビア社のOAジャーナルの掲載料について、一例を挙げます。例えば、脳神経画像に関する学術誌『NeuroImage』の掲載料は3,450米ドルとなっています。ほかにも、Lancet姉妹誌であり微生物学に関する学術誌『The Lancet Microbe』の掲載料は6,300米ドル、Cell姉妹誌であり遺伝学に関する学術誌『Cell Genomics』だと掲載料は8,900米ドルと、いずれも非常に高額です。
特に問題となっているのが、エルゼビア社の利益率です。2019年の決算によると、エルゼビア社の利益率は約40%と、GoogleやApple、Amazonといった世界的企業をも上回る莫大な利益を上げていることがわかります。2022年の売上高も10%増加しており、エルゼビア社の利益は今後も高い水準を保つことが予想されます。
掲載料引き下げ拒否を受けて学術委員全員が辞任
高い利益率を踏まえ、学術委員会はエルゼビア社に対して掲載料の引き下げを要求していました。ところが、エルゼビア社がその要求を拒否したため、学術委員会に所属する研究者が全員辞任するという事態が起こったのです。辞任した学術委員の一人であるChris Chambers教授は、エルゼビア社を「貪欲すぎる」と批判し、代わりにチームが立ち上げた非営利のOAジャーナルに論文を投稿するよう研究者たちに呼びかけています。
一方、エルゼビア社の広報担当者は、学術委員会全員の辞任について「残念に思っている」と述べたうえで、同社がオープンアクセスの推進に尽力していること、雑誌の質を考慮すると論文掲載料金は市場平均を下回っていることなどを主張しています。
過去には高額な雑誌購読料に対する反発も
エルゼビア社に対しては、雑誌の購読料が高額すぎることでもさまざまな批判が集まっています。2017年頃には、購読料の高騰が原因で、ドイツをはじめとする複数の国でエルゼビア社のジャーナルにアクセスできなくなりました。その後も、エルゼビア社の独占的なシステムや高額すぎる購読料に不満を募らせた大学や研究機関が契約を打ち切るケースが相次いでいます。2019年にはカリフォルニア大学がエルゼビア社との購読契約を終了し、2020年にはマサチューセッツ工科大学(MIT)が、同社との契約交渉を終了しました。
高額な掲載料を払ってでもインパクトファクターの高い学術雑誌に掲載したいと研究者が考えるのも当然のことです。しかしながら、今回の学術委員会全員の辞任は、大手出版社の搾取的ともいえる価格モデルに疑問を呈した形といえるでしょう。
参考文献
ELSEVIER Open access
ELSEVIER 論文出版料金(APC)リスト
The Guardian — ‘Too greedy’: mass walkout at global science journal over ‘unethical’ fees