シュプリンガー・ネイチャー社を中心としたオープンアクセスの最近の動向
オープンアクセス(OA)に関する最近の動向について、シュプリンガー・ネイチャー社を中心とした4つのトピックスをご紹介します。
シュプリンガー・ネイチャー社の転換ジャーナルに掲載されたゴールドOA論文が40%増
転換ジャーナルとは、OA化を推進するためにシュプリンガー・ネイチャー社が2019年に提唱した方法です。2020年には、同社が有するハイブリッドジャーナルの多くを転換ジャーナルとして認定するようcOAlition Sに申請するなど、積極的に転換契約を進めてきました。
その結果、2021年には同社の転換ジャーナルに掲載されたゴールドOA論文は前年比で40%増加しました。購読型ジャーナルの増加率は8.4%にとどまっており、多くの研究者が転換ジャーナルのゴールドOA出版を望んだことが分かります。同じジャーナルで比較しても、転換ジャーナルのゴールドOAとして出版された論文は、購読型の論文に比べて約2.8倍も多く使用されています。研究者にとって、OA出版は有益な出版方法であるといえるでしょう。
シュプリンガー・ネイチャー社の転換ジャーナルは730誌がcOAlition Sの基準を満たしており、これは他社が出版する転換ジャーナルの合計数608誌を大きく上回ります。さらに、同社の転換ジャーナルのうち6誌は、2021年にOAの取り込み率75%を達成しました。2023年には、この6誌に4誌を加えた計10誌が完全なOAタイトルになる見通しです。
これらのことから、シュプリンガー・ネイチャー社がOA化の推進において主要な役割を担っていることがうかがえます。
8分野の主要な研究をピックアップしたOpen Access Portfolio Collectionの公開
2022年6月、シュプリンガー・ネイチャー社のホームページ上にOpen Access Portfolio Collectionという特設サイトが公開されました。このサイトでは、天文学・物理学、化学・材料科学、コンピュータサイエンス、地球科学・地理、エネルギー、エンジニアリング、環境科学、数学・統計という8つの学術分野において、ブレークスルーとなった研究のハイライトが紹介されています。サイト右側にある分野名をクリックすると、主要なOAジャーナルや書籍・論文などにアクセスできます。
Open Access Portfolio Collection
マックス・プランク協会とOA書籍出版契約を締結
2022年5月、シュプリンガー・ネイチャー社は世界最高峰の学術研究機関であるドイツのマックス・プランク協会との間に、OA書籍出版契約を締結しました。これは、2021年3月に締結されたカリフォルニア大学バークレー校図書館に次いで2番目の契約であり、対象となる機関の数は80超と過去最大規模になっています。
3か年契約により、マックス・プランク研究所に所属する研究者はOA書籍を割引価格で出版できるようになります。さらにマックス・プランク研究所が基金に資金提供し、研究者がOA出版する際の費用を負担します。これにより、多くの研究者が書籍をOA出版できるようになると期待されています。
『薬学図書館』にシュプリンガー・ネイチャー社のOA化に向けた取り組みが掲載される
第22回図書館総合展フォーラムで発表された内容をまとめた、「シュプリンガー・ネイチャーのオープンアクセス推進活動と、日本での転換契約の成立に向けた取り組み」という記事が雑誌『薬学図書館』に掲載されました。この記事では、シュプリンガー・ネイチャー社が推進する転換契約の仕組みやその有用性、OA出版がもたらすインパクトやグリーンOAと比較したゴールドOAのメリット、Read and Publishモデルの転換契約などについて分かりやすく解説されています。さらに、日本の研究成果を世界に向けてますます発信できるようになるためにも、財源の確保や転換契約の導入に向けて積極的な検討を行う必要があると提言されています。
この記事はオープンアクセスで公開されており、以下のURLから誰でも無料で閲覧できます。
https://doi.org/10.11291/jpla.67.1_13
参考文献
[プレスリリース] シュプリンガー・ネイチャーの転換ジャーナルのOA論文出版数が40%増加
シュプリンガー・ネイチャーの特設サイトより、8つの分野におけるブレークスルー研究のハイライトをどなたでも自由にご覧いただけます。
[プレスリリース] シュプリンガー・ネイチャー、マックス・プランク協会と過去最大のオープンアクセス書籍出版契約を締結
[お知らせ] 薬学図書館(書誌)に「シュプリンガー・ネイチャーのオープンアクセス推進活動と、日本での転換契約の成立に向けた取り組み」の記事を公開