Springer Nature社、現代の学術論文が抱える課題を解決する新たなフォーマットを公表
世界的な学術出版社であるSpringer Nature社は2022年2月、新しい出版フォーマット「Crosstracts」を開発したと発表しました。これは、Springer Nature社の本拠地でもあるドイツの工業系大学、アーヘン工業大学との共同開発によるものです。学術誌出版前に論文の公開および配布が可能となるこの出版フォーマットにより、現在の学術論文が抱える2つの課題に対する解決策になると期待されています。
新しい出版フォーマット「Crosstracts」
2022年2月21日、世界的な学術出版社であるSpringer Nature社(本社はドイツとイギリス)は、同社と、RWTH Aachen University(ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州アーヘンにある、アーヘン工科大学)のCluster of Excellence Internet of Productionは、学術研究に関する2つの課題に対応する出版フォーマット「Crosstracts」を新たに制作したと発表しました。
アーヘン大学が提供するCluster of Excellence Internet of Production(先進国向けのIoP)は、2006年から2017年にかけてのアーヘン大学における取り組みのことで、将来的な製造業の「実行可能性」と、「競争力」を確保するため、革新的なソリューションの開発が進められていました。その成果としては、知能的で革新的な生産システムの開発、顧客固有のコンポーネントの効率的な生産のためのソリューション、統合的な製品のライスサイクル管理(PLM)などがあります。
そして今回、アーヘン大学とSpringer Nature社は、学術論文に関する2つの課題に対処することを目的とした「Crosstracts」と呼ばれる新しい発行形式を作成しました。
課題とは
世界中の研究者による研究成果は、論文として執筆し学術誌に投稿しても、すぐに掲載、公表されるわけではなく、市販され手に取るまでには多くの時間を要します。さらに、他分野にまたがるようなコラボレーションの機会も限られているため、グローバルな課題を解決するための学術部門間の連携の機会も失われています。
これらの課題に対し、今回開発された「Crosstracts」は次のような解決策となると、Springer Nature社は伝えています。
1つ目の課題に対しては、「Crosstracts」は、SpringerNature社が保有するOnlineFirst、およびLiveReference機能を利用することで、学術誌そのものが完成(販売される)のを待つことなく、学術論文の公開および配布が可能となります。また、2つ目の課題に対しては、査読者のうち少なくとも1人は、(投稿された論文とは)別の分野から選定されるという、組み込み型の出版要件があります。このため、研究としての新規性が認められやすくなる可能性があります。
「Crosstracts」により以上のプロセスが出版プロセスに直接組み入れることとなり、研究結果を共有するまでの時間を短縮でき、学術分野間の協力が普遍的なものとなります。
2022年、学術誌への投稿は大きく変わる?
Springer Nature社では、これらの成果として、ブックシリーズ「Interdisciplinary Excellence Accelerator Series (IDEAS)」を出版するとしています。2022年中には、シリーズ初となる書籍「Internet of Production: Fundamentals, Applications and Proceedings」の出版が予定されています。
Springer Nature社はこれまでにも、
●2021年5月に、人工知能(AI)を活用し機械生成した文献レビューを取り入れた出版形式による、研究書の刊行を発表
●2020年12月に、3本の研究論文の機械生成による要約が掲載された特別冊子「Nature Index Artificial Intelligence」を刊行
●2019年4月に、リチウムイオンバッテリーに関する最新の研究動向を、人工知能により要約した化学分野の研究書「Lithium-Ion Batteries:A Machine-Generated Summary of Current Research」を刊行
など、学術誌として革新的な取り組みを発表しています。今回の「Crosstracts」も、パートナーであるアーヘン大学との共同開発により誕生しました。学際的コミュニティーの創設の後押し、世界的な課題に対するプラスの影響、社会的認知の獲得などを目指しています。
最後に
これらのブックシリーズと共同事業は、Springer Nature Publishing Labから誕生したものです。Springer Nature社のPublishing Solutionチームと、選抜された学術パートナー間で、1~2日間にわたるワークショップを行い、、研究知識の移転における重要な問題に重点的に取り組んでいます。彼らは、研究者のニーズと問題点の理解と、潜在的な解決策のアイデア探求を目的としています。
参考文献
[プレスリリース] シュプリンガー・ネイチャー、研究に関する重要な難題に対応するブックシリーズを新たに創刊(Springer Nature,2022/2/21)
ドイツ アーヘン大学 ”The World becomes a Lab” – Vision of the IoP
[プレスリリース] シュプリンガー・ネイチャー、機械で生成されたツールを進化させ、AIベースの文献の概要を備えた新しい本の形式を提供
[プレスリリース] シュプリンガー・ネイチャー、特別冊子“Nature Index Artificial Intelligence”を刊行
[プレスリリース] シュプリンガー・ネイチャー、アルゴリズムを活用して内容を機械生成した研究書を刊行